第116回 ターゲット設定の極意は「断る勇気」にあり

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

第116回 ターゲット設定の極意は「断る勇気」にあり

安田

商売をする上で「ターゲット設定が重要だ」とよく仰ってますよね。「ビジネスがうまくいっていない=ターゲット設定ができていない」ということだと。


倉橋

そうですね。ビジネスで一番大事なところだと思います。同時に一番難しいところでもある。

安田

ほう。例えばどういうところが難しいと感じます?


倉橋

実際に商売を始めると、設定したターゲット以外のお客様もいらっしゃいます。それでも全てのサービスやホスピタリティは、徹底して最初に決めたターゲットに向けて貫き通さないといけない。ここが本当に難しいんですよ。

安田

なるほど。一度決めたターゲットから「ぶれない」ようにすることが重要だということですね。確かに最初のうちは、来てくれるお客様は誰でも嬉しいと感じてしまいますもんね。


倉橋

そうなんです。でも、ターゲット外のお客様で席が埋まってしまうと、本当に来てほしいターゲットがいらした時に十分なサービスが提供できない。僕自身、過去にそういう経験がありました。

安田

それは本末転倒ですね。よかれと思ってしたことが、結果的に機会損失につながってしまうと。


倉橋

そういうことです。だからこそ、最初に設定したターゲットに100%の力を注ぐという覚悟が必要です。そのためにはターゲットでないお客様を「断る勇気」が、ものすごく大事になってくる。

安田

「申し訳ありませんが、当店では対応できません」と、はっきり言えるかどうかですね。でも、小さく始めたお店だと特に、最初に来てくれた常連さんの存在は大きいじゃないですか。その方々に引っ張られて、気持ちがぶれてしまいそうな気もします。


倉橋

そこで断固として対応するためにも、最初の設定の仕方がすごく重要で。ちなみに僕の場合、世の中の「大きなニーズ」を捉えることから始めます。例えば今なら、物価は上がっているのに所得はなかなか上がらない。それが「大きなニーズ」なわけです。

安田

ああ、なるほど。自分の希望や気持ちではなく、まずは世の中を見るわけですね。


倉橋

そうそう。実際に世の中に存在する大きなニーズを捉え、その上で「じゃあどういう経済状況で、どういう価値観の人がターゲットになるだろう」と考えていく。

安田

ああ、私はBtoBの仕事がメインですが、確かにクライアントの予算感は意識しますね。ただ一方で、そのあたりを気にしすぎると、「高くすると売れないから安くせざるを得ない」っていう価格設定のジレンマに陥りませんか?

倉橋

もちろんいたずらに高くしたら売れませんよね。そういう意味では「払ってもらえる価格設定」にするのは前提になってくる。ただ、仮に売れたとしても、リピートしないならそこには価格以外の問題があるわけですよ。つまり、価格だけ見ていてはいけないんです。

安田

なるほど、重要な視点ですね。価格以上の、あるいは価格とは別の価値を感じてもらわなければ、リピート客にはなってもらえない。

倉橋

そうなんです。お客様にとって「役に立つ」「得をする」「感動する」といった付加価値を、パズルを埋めるように一つひとつ作り上げていく感覚ですね。そしてその付加価値は、最初に設定したターゲットからぶれずに考え抜かれたものでなければならない。

安田

ははぁ、なるほど。全ての施策は、ターゲットにリピートしてもらうためにあるべきだと。一方で、「絶対的な自信がある商品」をまず作って、それに振り向いてくれるターゲットを探す、というアプローチもありますよね。

倉橋

確かにそうなんですが、正直に言ってあまり成功確率は高くないと思います。それに商品ありきでスタートすると、かえってターゲット選定がしにくくなっちゃうんですよ。作り手の想いが強ければ強いほど、視野が狭くなってしまうんです。

安田

ああ、確かにそういう側面はありそうです。

倉橋

もちろんそうならないケースもあるとは思いますけどね。でもやっぱり「こういうことで困っている人がいる」「こんなことをしたら喜んでくれる人がいる」という潜在的なニーズを見つけてから、それに合った商材を用意する。この順番が基本になると思いますね。

安田

そうかそうか。つまり「プロダクトアウト」ではなく、完全に「マーケットイン」の発想なんですね。自分の作りたいものではなく、顧客が求めているものを提供するという。

倉橋

仰るとおりです。「マーケットイン」で考えないとビジネスはうまくいかない。もちろんその上で「うちの商品はこういう理由で他とは違います!ここが画期的なんです!」という風なマーケティングをするのはアリですけどね。

安田

そういうPRをするにしても、付加価値の設計は徹底してマーケットイン的だということですね。言われてみれば、私も無意識のうちに「こういうことで困っている人が多いから、こんな切り口の商品ならきっと響くだろう」と考えて商品を作っていました。

倉橋

ええ。安田さんしかりビジネスを成功させてきた人は、大なり小なりマーケットイン的思考で商品を考えているはずです。例えばいま「マシュマロ入りのチョコ」がブームになっていますけど、それは「チョコとマシュマロの組み合わせが食べたい」という明確なニーズがあるからで、別に偶然ヒットしたわけじゃない。

安田

ははぁ、そんなブームがあったんですね(笑)。ともあれ、いま世の中で流行ってるものは、そもそものニーズがあったから売れていると。

倉橋

ええ。逆に言えば、「まだ誰も知らない商品」をゼロから流行らせるのは、相当難しいことだと思いますね。

安田

確かに。大企業のように潤沢な資金があれば別なのかもしれませんが、それでもヒットするのは一握りでしょうしね。そう考えると、世の中の大きな流れを作るのは大企業に任せて、我々はその流れにうまく乗っていくのがいいんですかね?(笑)

倉橋

そうかもしれません(笑)。とにかく鉄則は、流行っているもの、つまり「ニーズがあるもの」を早く見つけ、販売することです。仕入れたものを流行らせるのではなく、既に流行っているもので地域一番になることを目指すべきなんですよ。

安田

なるほどなぁ。設定したターゲットに何が流行っているのかによって、ビジネスの方向性も大きく変わるわけですね。こうして話していると、「ビジネスはターゲット設定が全て」と言っても過言ではないかもしれませんね。

 


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

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株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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