第123回 ファストファッションと高級ブランドの「消えゆく境界線」

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

第123回 ファストファッションと高級ブランドの「消えゆく境界線」

安田

先日、東京の丸の内を歩く機会がありまして。そこで「今、どんな服が流行ってるのかな」とショーウィンドウを見て歩いていたんですね。


倉橋

ああ、あのずらっとブランドが並んでいる通りですね。

安田

そうそう。ふと気づくと、道行く人たちもショーウィンドウに飾ってあるような流行のファッションをしているんです。でも全員ブランドものの服を着ているかというとそうじゃない。中にはユニクロなどのファストファッションを着ている人もいるはずで。


倉橋

ああ、なるほど。ぱっと見では違いがわからなくなってきているのかもしれませんね。

安田

そうなんです。昔は「高級品はかっこいい、安い服はダサい」という印象がありましたけど、今は安くてもかっこいいですよね。


倉橋

確かに確かに。フォルムも生地も縫製もそこまで大きな差はないですよね。逆に最近は高級ブランドも中国や東南アジアでの生産だったりするらしいですしね。

安田

そうなんですよ。この間、5万円もするラルフローレンのデニムを買ったんですけど、よく見たら中国製だったんです。デザインも縫製も生産国も差がない。となると、高級ブランドは一体どこに価値を見出せばいいんだろうと思ってしまって。


倉橋

いやぁ、僕も安田さんとまったく同じことを感じています。ブランド物とユニクロさんのようなファストファッションに、もはや明確な違いはない。あるとすれば、それはもう「買う人の気持ち」だけなんじゃないですかね。

安田

そうですよね。もちろんヴィトンやエルメスのバッグのように、そもそもの素材などが優れている商品もあるとは思うんです。でもロゴがデカデカと入ったTシャツが、ただそれだけで5倍の値段になるのはどうもばかばかしく感じてしまって。


倉橋

あのロゴ代だけでいくらなんだろう、と考えてしまいますよね(笑)。

安田

そうそう。逆に言えば、ロゴがついていなかったら、高級品を見分けるのは不可能な時代になってしまった。よっぽど本当に研究してるプロじゃないと、例えばユニクロのデニムなのかラルフローレンのデニムなのかって言われて、「いや、これは絶対ラルフです」とかって言えないと思うんですよ(笑)。


倉橋

そうかもしれませんね。何を隠そう、僕自身も最近はブランド物よりもファストファッションの服を買うことの方が多くなりましたから。

安田

そうなんですか! それはブランドかどうかを気にしなくなったからですか?

倉橋

そうですね。ファストファッションのジャケットとか、楽だし機能性もいいんですよ。

安田

古くなった時に買い替えたりするのも気兼ねなくできますしね。

倉橋

わかります。それに高級ブランドの路面店を見ても、明らかにターゲットをインバウンドに寄せている。一方、インバウンドが来ないような地方の百貨店からは、高級ブランドがどんどん撤退しているんです。それがファストファッションの力が強くなっている証拠だと思います。

安田

ははぁ、なるほど。でもそのインバウンドの方々も、爆買いでブランド品を買う層ばかりじゃなくなってきてますよね。ユニクロや無印良品が、費用対効果が高くておしゃれだと気づいてきた。

倉橋

ああ、確かに。インバウンドでもファストファッションの人気が高まってますからね。

安田

これってもう日本だけじゃなく世界的な流れなんでしょうね。ブランドも生き残りをかけて「ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー」みたいにどんどん集約されています。

倉橋

ええ。このまま10倍の値段のままで生き残っていくのは難しいでしょうね。

安田

奇抜なデザインならともかく、普段着で着られるおしゃれなもの、というのは厳しそうですね。今はまだ「ブランド大好きおじさん」が上の世代に残ってますけど、彼らが引退した10年後、若者たちが買うんだろうかと。

倉橋

厳しいでしょうね。それにビジネスシーンでの「ノーネクタイ」文化にも打撃を受けているはずです。スーツやネクタイという市場が、圧倒的に縮小していますから。

安田

ああ、確かに。スーツ自体も家で洗濯できるウォッシャブルスーツが主流になりましたし。皆が着ていれば、もはやそれが失礼だという感覚もなくなりましたよね。逆におしゃれだったりもしますし。

倉橋

そうそう、これで十分じゃないかと。ただそのファストファッションの雄であるユニクロさんが、今ちょっと「間違えているんじゃないか」と思うことがありまして。

安田

へえ、あのユニクロが間違えていることがあるんですか。

倉橋

ユニクロさんって、いまだに9月1日になると、きっちり売り場を「秋物」に変えるんですよ。でも今の日本って、9月も10月もむちゃくちゃ暑いじゃないですか。10月中旬の今だって、まだ半袖でもいいくらいの日がある。

安田

確かにそうですね。「秋物」を着る時期がほとんどなくなりましたもんね。昨日まで半袖だったのに、翌日は急に寒くなって上着が必要になったり。

倉橋

でしょう? なのにあんなに素晴らしい会社が「シーズナリティ」、つまり気候に合わせる、という一点だけができていないんです。日本の気候が「夏からいきなり冬」に変わってもう4〜5年経つのに、いまだに律儀に「オータムフェア」をやっている。

安田

きっと社内でも気づいているんでしょうけど、大きな仕組みを変える決断がまだできない、ということじゃないでしょうか。

倉橋

過渡期なんでしょうね。この「ユニクロでも間違える」という事実は、社内の会議でもテーマにするほどの大きなトピックだなと。先ほどのブランドの話も含めて、今アパレル業界はものすごい変化に晒されていると思います。

安田

確かに。アパレル業界は、ここ2~3年で勢力図がまったく変わってしまうかもしれませんね。


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

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株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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