日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。
質問
「パキスタンとインドは紛争状態ですが、国民同士も仲が悪いのですか?」
この件、パキスタンの最大都市・カラチ在住の日本人起業家M氏にヒアリングしてみました。
さきに結論を言うと、「地域によって差はあるものの、パキスタン人はインドのことをそれほど嫌っているわけではない。少なくともパキスタン人はインドに対して敵意をあらわにしているようには見えない」という回答でした。
パキスタンとインドはもともと「イギリス領インド帝国」として一つの国でしたが、いろいろあって1947年に分離しました。その独立時の背景から、カシミール地方をめぐる国境争いが生じ、それは今日まで続いています。
ただ、パキスタンにはインド由来の人々もいます。彼らはインドに親類がいて、インドのことをあまり悪く言ったりもせず、映画や音楽などもインドのものを好みます。それが別の民族にも伝播して、パキスタンではインドのカルチャーを楽しむ人は少なくありません。
パキスタン人からインドに対する暴力的な何かを感じたことはほとんどない、と言っていました。
もちろん、対立を感じていないという訳ではなく、国境に接している地域などは割合ピリピリしているようで、たとえばカシミールの防衛ラインで働いている軍人の家族などは「インドは危ない国だ」と考えている人はいます。
しかし、一般市民はそれほどでもないようです。
これは大都市カラチだけでなく、シアールコートやラホール、また国境に近いイスラマバードといった他の都市でも、基本的にこの傾向は変わりません。
(カシミール問題が起こっている場所とパキスタン主要都市)
唯一、M氏が肌でピリつきを感じたのは、2019年にインドの戦闘機がパキスタン領空内に入ってきて、その操縦士がパキスタン国内で捕らえられたときだそうで、
「インド軍がカラチやイスラマバードなど主要都市を狙っているという情報が流れたときは少しピリピリした。ネットが繋がりにくく、街もいつもの様子とは異なり、大きなショッピングモールへは時短営業や夜中の全消灯の要請、救急病院にもベッドを一定量空けるよう促す政府通達があった」
一時は「もしかして……始まるのか?」という緊張が走ったそうです。しかし、それも長くは続かず、数日後には普段通り「ボリウッド映画(=歌って踊りまくるインド映画)、最高だよね!」という感じに戻っていたとのこと。
一方で、インド人に「パキスタンに住んでいる」と言うと「かわいそうに。よくあんなところ住んでるね。最悪だろ?あの国」と言われるそうで、インド人は本当にパキスタンのことをよく思っていないのだと思う、とも言っていました。
そういえば、私もドバイのエージェント(インド人)に「こないだパキスタンに行ってきた」というと「お前、あんな危ねーところよく行くな」と言われたのを憶えています。
ただ、彼もパキスタンから出稼ぎに来ている人々とは仲が良いので、敵国同士だと言われてもいまいちピンと来ません。
メディアで調べると、両国関係は相当悪いという印象を持ちます。国家レベルではその通りかもしれませんが、現地の声を聞くかぎり、国民レベルではそれほどでもなさそうです。
今回はパキスタン側から見た両国関係のお話でした。インド側から見るとまた違うのかも知れません。
この記事を書いた人
大西 啓介(おおにし けいすけ)
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。
写真はサウジアラビアのカフェにて。