第30回「アラブ首長国連邦の各首長国はどのような特徴を持っているのですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「アラブ首長国連邦の各首長国はどのような特徴を持っているのですか?」

   回答   

前回、UAEの7つの首長国について名前だけ触れましたが、今回はそれぞれについてご紹介します。


(↑UAEの位置と国を構成する各首長国。面積はアブダビが圧倒的に大きく、GDPも自国民の数も一番多い)

【アブダビ】

面積、人口、経済規模ともにUAE最大で、名実ともにUAEの首都です。
UAEは産油国ですが、その石油の9割はアブダビから出ています。
石油だけに依存しないように他分野も伸ばそうとしており、再生可能エネルギーにも積極的に取り組んでいます。以前の記事で、「THE LINE」というサウジアラビアのスマートシティ構想を紹介しました。アブダビでも同様にCO2排出ゼロを掲げた「マスダールシティ」という都市計画を進めています。
「THE LINE」ほど規模は大きくないものの、スタートしたのは2006年とサウジアラビアに先駆けて着手しています(進捗は予定よりかなり遅れているようですが)。
国の予算の9割を負担するUAEの屋台骨であり、1971年の建国以来、大統領は2代続けてアブダビ首長が兼務しています。

【ドバイ】

面積、人口、経済規模はアブダビに次いで第2位ですが、知名度は第1位の首長国です。
外国人労働者と外国人観光客であふれる国際都市で、街を歩けば実に多種多様な人々を見ることができ、まさに「人種のるつぼ」だと体感できます。その分、自国民の割合は少ないです。
ドバイは石油のイメージがあるかもしれませんが、実際はあまり出ません。そのため商業をメインに発展を遂げ、結果、貿易が大きく伸びて周辺諸国の物流ハブとなっています。
アブダビと同じく再生可能エネルギーに注力しており、「ムハンマド・ビン・ラーシド・アルマクトゥーム・ソーラーパーク」という、単体では世界最大のメガソーラープロジェクトがあります。ちなみに「ムハンマド・ビン・ラーシド・アル・マクトゥーム」というのはドバイ首長の名前で、UAEの副大統領でもあります。
フリーゾーンがUAEで最も多く、ビジネスエリアが充実しているため、数多くの外国企業が進出しています。フリーゾーンとは、外国企業の誘致を狙い、拠点進出に伴う法的・税制面での様々な優遇措置を整備している経済特区のことです。

【シャルジャ】

ドバイの隣にある首長国です。
物価や不動産が前掲の2つより安めで、どちらかといえば中小企業が多いです。
産業は不動産業、サービス業のほか、農業もあり、イチゴ、デーツ、ライムなど国内向けの果物や野菜を生産しています。
また中古車部品の取り扱いが多く、近隣中東だけでなくアフリカやヨーロッパ諸国とのハブになっています。
芸術・文化都市としての顔もあり、UAEの美術館の4分の1はシャルジャにあります。
ドバイで働く労働者のベッドタウンでもあります。ただ、通勤時の渋滞のヒドさは有名で、シャルジャから来る顧客とのミーティングはだいたい開始が遅れます。
イスラム教の戒律適用が厳しいため、飲酒はできません。

【アジュマン】

東京都の8分の1程度の大きさの、面積最小の首長国です。
シャルジャと同じくドバイのベッドタウン的位置づけで、シャルジャよりも物価が安く、戒律ユルめで飲酒OKです。
古くは漁業や真珠採取がメイン産業の地域でしたが、日本のミキモトパールの真珠養殖成功によって天然真珠の価値が急落し、衰退した歴史があります。

(※以下、2021年7月21日追記)
各首長国のアルコール規制は、2020年11月から大幅に緩和され、シャルジャ以外の首長国では基本的にライセンスフリーで入手できるようになったようです。

【ラス・アル・ハイマ】

オマーンと国境を接しています。
観光業を伸ばそうとしている首長国で、透明度が高く美しい海岸線を観光資源に、リゾート開発を進めており、ラグジュアリーホテルができ始めています。Julpharという中東最大の医薬品製造メーカーや、RAKセラミックという世界最大のセラミックブランドの本拠地があります。
ドバイやアブダビと比較すると、物価・不動産ともにかなり安く、フリーゾーンもあります。

【フジャイラ】

古くから船舶の燃料補給地として有名で、現在はシンガポール港、ロッテルダム港とともに3大補給港の一つであるフジャイラ港をもつ首長国です。
フジャイラはホルムズ海峡の外側にあることから地政学的リスクを回避できるので、アブダビからはフジャイラへのパイプラインが走っています。産業としては、ドバイの建設ブームの影響で建設需要が高まり、鉱業が発達しました。
UAEの中で最も東に位置します。気候はアブダビやドバイよりも穏やかです。

【ウンム・アル・カイワイン】

2番目に小さい首長国で、アジュマンよりは大きいですが、人口はその半分以下です。
アジュマンと同じく漁業・真珠採取がメイン産業でした。真珠は養殖真珠で衰退しましたが、漁業の方は複数魚種の養殖に成功し、現在も主要産業の一つとなっています。
肥沃なオアシスがあるので、穀類や野菜の栽培も行われています。
ここもフリーゾーンがあります。


7つの首長国のうち、アブダビとドバイ以外の5首長国は、「北部首長国」としてひとまとめにされることが多く、取れる情報はそれほど多くありません。知名度もガクッと落ちます。
したがって存在感も薄くなりがちなのですが、各首長国はビジネス誘致のためのフリーゾーンを持っており、ドバイやアブダビに続くかたちでそれぞれ特色のあるビジネスを発展させようとしていると私は考えています。

アラブでビジネスといえば、「とりあえずドバイ」と連想される方は多いと思います。
たしかに、ドバイやアブダビには世界中からビジネスパーソンが集まるため、派手で魅力的に映ります。しかしその分、競争が激しく、物価や不動産も高いため、参入コストが高くつく傾向にあります。一方、北部の首長国は総じてコストが安く、あえて狙って進出する企業はまだまだ少ないので、歓迎されやすいとも聞きます。
私個人としては、そうした周辺地域へと目を向け、コネクションを築きながら可能性を探ってみるのも悪くないと思います。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

 

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