第42回「普通のアラブ人はイスラエル(ユダヤ人)をどう思っているのですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「普通のアラブ人はイスラエル(ユダヤ人)をどう思っているのですか?」

   回答   

これはとてもデリケートなトピックなので、正直答えにくい質問ではあります。
私はパレスチナに一度だけ行ったことがありますが、短い滞在だったため、現地の人から直接話を聞く機会がありませんでした。
また他のアラブ地域でも、デリケートなトピックゆえか話題に上ることは少ないです。
ということで、現地の生の声を拾っているわけでもなく、直接の当事者でもない私の口から言えることは多くはありません。
そのような理由から、どこまで回答できるかわかりませんが、せっかくご質問いただいたのでトライしてみたいと思います。

一般的に、イスラエルによるパレスチナの扱いをよしと考えるアラブ人は、まずほとんどいないと思います。ただ、これは政治的な話で、民間レベルでは意識に少し差があるように思います。

イスラエル以外のアラブ諸国において、アラブ人とユダヤ人が仲良くしている事例は普通に見られると思いますし、イスラエル国内においても双方の交流はあります。
たとえば、イスラエルにある企業にパレスチナから出勤して働くアラブ人がいますし、単なる労働だけでなく会社経営をしている人もいて、イスラエルにあるホテルの多くがアラブ人によって経営されていると言う話も聞いたことがあります。
多くのビジネスがパレスチナのアラブ人抜きでは成立しないので、イスラエルの経済にとってもアラブ人が不可欠になっている、ということだと思います。

仕事だけでなくプライベートでの友情も成立しており、パレスチナのアラブ人を友達に持つイスラエルのユダヤ人は、「争いが早く収まってほしい」と考えていると思います。

また、ご質問ではイスラエル国籍=ユダヤ人とされていますが、中にはイスラエル国籍のアラブ人もいます。つまり、イスラム教徒のイスラエル人も存在しているということです。

メディアの情報からイスラエルとパレスチナを単純な対立構造で理解していると、もう何がなにやら分からなくなる人も多いかと思います(私もその一人でした)。
しかし、イスラエルとパレスチナは、白と黒とにハッキリ分かれていると言うよりは、濃淡のあるグレーが溶けて混ざり合っているようなイメージで考える方が、実態に近いのではないかと思います。

おそらく、民族的な問題よりも、むしろ政治的な問題のほうがずっと大きいのだと思います。そして、その政治的な部分が、最近少し変わりつつあるように見えます。
たとえば、2020年にアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンがイスラエルとの国交を正常化しました。
また今年、12年ぶりにイスラエルの政権が交代しました。その連立政権には建国以来初のアラブの政党が参加しています。

非常に長い間続いている争いなので、そう簡単に解決が望める問題だとは思いません。しかし、たとえそうだとしても、少しずつでも前進すればと願わずにいられません。

 

 

この著者の他の記事を見る


 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

【お知らせ】
ポッドキャスト始めました。
中東や東南アジアを中心に、海外の文化(ときどきビジネス)について喋る番組です。
番組名: Friday Airport Lounge
毎週金曜17時更新
https://anchor.fm/friday-airport-lounge

 

2件のコメントがあります

  1. 非常にデリケートな問題にお答えいただきありがとうございます。
    私は長い間彼らの言語であるアラビア語を学び、パレスチナにも大切な友人がいますが、大西さんのご回答には賛同致します。
    特に、白黒はっきりしたものというよりも濃淡のあるグレーのイメージというのはまさに日々感じるところです。そしてそれはパレスチナとイスラエルに限らず、他のアラブ諸国の人々がその問題をどう感じているかという点でも当てはまっているように感じます。さらに、それは時代や世代によっても、大西さんの仰るようにそれが政治の場なのか観光なのか、はたまた友人関係においてなのか等、非常に多くの観点によっても、常に変わりつつあるのだという柔軟な視点が重要になります。
    そしてこの問題はアラブ世界について比較的多くの日本人が関心を持つ数少ないトピックでもあります。
    私の知り合いでもアラビア語やアラブ文化を学ぶ動機にこの問題があるということが少なくありません。
    近い将来、アラブとイスラエル、日本の物理的、精神的距離が近づいてくる時代が来るかもしれません。感情的になりやすいトピックではありますが、彼らと話す機会があれば、様々な視点から俯瞰するとともに、しかし目の前の1人の人間として冷静に話を聞き寄りそう姿勢が大切になってくるのかなと思います。

  2. 阿比留さま

    ご感想ありがとうございます。また、ご賛同いただき嬉しく思います。
    アラブ含む中東は情報がなにかと錯綜しがちなので、日本からはリアルな情報を取りづらい地域の一つかと思います。それゆえか、実際に現地を訪れると「聞いていたのと全然違う」と感じるようなことも未だに多く経験します。
    日本からは物理的にも心理的にもまだまだ距離が遠い地域ですが、ビジネスだけでなく人々や文化の面でも多くの日本人にとって大変ユニークかつ魅力的な場所だと思いますので、宗教や政治に限らずいろんな面をご紹介できればと考えています。
    この度はコメントありがとうございました。

感想・著者への質問はこちらから