第105回 モノづくりを超えて、コトづくりの時代へ

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第105回 モノづくりを超えて、コトづくりの時代へ

安田

前にホリエモンが「次に来るブームは和牛とロケットだ」なんて言ってましたけど、実際に和牛はすでに海外で大人気ですよね。「SUSHI」や「Pokemon」のように、「WAGYU」とローマ字表記でも通じるようになって。


中島

へぇ、そうなんですか。日本発の文化としてしっかり世界に受け入れられているんですね。

安田

そうそう。でね、この対談でも何度も出ている「借景」も、同じように世界に広められないかなと思っていて。


中島

なるほど、借景ですか。確かに海外に借景の文化が根づいたら面白いですね。

安田

でしょう? そのためにも日本は早々に、「モノづくり」から脱却して「コトづくり」に舵を切る必要があると思うんです。


中島

ほう、「コトづくり」というと?

安田

日本は長らく「モノづくり」の国でしたけど、家電は中国や韓国に追い抜かれてしまっているし、車もトヨタは頑張っているけど、他はもう厳しい。


中島

確かに、昔は「家電といえば日本製」でしたけど、今はそういう印象が薄れてきてますね。

安田

そうなんですよ。いずれどこかで「モノづくり」の限界が来る。だから早めにそういった製造ではなくサービス、つまり「コト」に注力した方がいいんじゃないかと。実際、いま海外からの観光客を呼び込んでいるのはそっちじゃないですか。


中島

確かにそうかもしれません。そういえば「自分の名前を入れてくれる包丁」が海外の方に人気のようですが、これも一見、モノを売っているようで、「コト売り」ですよね。

安田

まさにまさに。もちろん包丁自体のクオリティも大事ですが、それ以上に「自分専用の包丁で料理をする」という体験そのものが価値になっている。他にも海外では一杯3000円ラーメンに行列ができてますけど、あれも単に空腹を満たすためだけじゃないんですよね。


中島

ああ、ラーメンがそれくらいの金額だというのは聞いたことがあります。でもそれは空腹を満たすためじゃないんですか?

安田

もちろんそれも一つなんですが、例えば一風堂なんかは「デートでラーメンを楽しむ」という体験ができる場所になっているんです。つまり「サービスも含めた価格」なんですよ。このあたりの視点は借景、あるいは庭づくりにも活かせるような気がしますね。


中島

は〜、確かに。つまり「景色」「庭」そのものを売るのではなく、それらを通じて「どんな体験ができるか」を商品化していく必要があるわけですね。

安田

まさにその通りです! もっとも中島さんの場合は、すでにそういう「コト売り」を実践されている気がしますけどね。庭づくりのプロであるのはもちろんですが、実際に提供しているのは「豊かな時間」や「理想の暮らし」という「コト」なわけで。


中島

ああ、確かにお客様との打ち合わせでは、「どう暮らしたいのか」「ここでどんな時間を過ごしたいのか」という点は必ずお聞きするようにしています。そうか、あまり実感はなかったですが、確かに私はモノだけでなくコトも重視していますね。

安田

それこそが中島さんのお庭の本質なんでしょうね。ただ作って終わりではない。そういえばちょっと話は逸れますが、最近「夕焼けを見たことがない」っていう子どもが増えているんですって。

中島

え? そんなことはないでしょう。天候にもよりますけど、夕焼けは毎日あるわけで。

安田

それがね、太陽が沈みかけて空が赤くなることを「夕焼け」と呼ぶのだと、それ自体を知らないらしいんですよ。つまり景色としては見ているが、それを「夕焼け」と認識できていない。…これ、借景も同じなんじゃないかと思っているんです。


中島

ああ! なるほど。つまり借景を借景として認識できて初めて、その美しさが理解できるということですね。

安田

その通りです。つまり商品というより、考え方そのものもセットで広めていく必要があるんでしょう。

中島

ああ、確かに。そもそも僕ら庭師の役割自体、お客様が「庭のある生活を楽しむ感覚」を持てるようにすることなのかもしれません。

安田

いいですねぇ。まさに人生を豊かにするお仕事ですよ。「寿司の次は借景」と言える時代が来たら、中島さんは引っ張りだこでしょうね(笑)。

中島

そうなればありがたいです(笑)。いずれにせよ、借景をもっと広める活動にも取り組んでいきたいですね。

安田

ぜひやりましょう! まずはローマ字表記の「SYAKKEI」を流行らせるところからですね(笑)。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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