第115回 「心の余裕」は、庭で育つ

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第115回 「心の余裕」は、庭で育つ

安田

最近「相手は誰でもよかった」というような、自暴自棄な犯罪が増えている気がして、心が痛みます。日本の若者の中には、未来に希望が持てず閉塞感を抱えている人も少なくない。


中島

そうですね。悲しいニュースが多いと感じます。

安田

その一方で、海外の人々からは「日本は安全で清潔で、世界一住みやすい国だ」と賞賛される。このギャップは一体どこから生まれるんでしょうね。


中島

うーん、日本は素晴らしい国だと私も思いますが、一方で、経済的な理由で家を持つことや、庭を作ることを諦めざるを得ない方が増えているのも事実です。そうした生活の基盤が揺らいでいることが、社会全体の閉塞感につながっているのかもしれません。

安田

やはり経済的な問題は大きいと。ただ戦後の何もない時代と比べれば、現代は遥かに豊かですよね。問題の根っこは、お金そのものよりも、他人と比較してしまう国民性にあるような気がするんです。


中島

ああ、なるほど。「あの人と比べて自分は…」という気持ちが、人々を苦しめていると。

安田

ええ。中島さんは、現場でお客様と接していて、多くの人が経済的に苦しくなっていると感じますか?


中島

それはもう、ひしひしと感じますね。庭づくりにかけられる予算が、明らかに年々少なくなっていますから。以前は石をふんだんに使った、趣のある庭のご依頼が多かったのですが、今はコストを抑えられるコンクリート仕上げが増えています。

安田

それって本当にお金がないからなのか、それとも庭にお金をかける価値を見出さない人が増えたのか。どちらなんでしょう?


中島

価値観の変化も大きいと思います。車は皆さん普通に新車を買われたりしますから。庭にそこまでお金をかけるなら、他のことにお金を使いたい、と考える方が増えたのかもしれません。

安田

なるほど。とはいえ庭がもたらしてくれる価値って、お金には代えがたいものだと思うんです。自宅にいながら自然を感じ、心を解放できるプライベートな空間があるというのは、最高の贅沢であり、最高の「心の栄養」になるはずで。


中島

本当にそうですね。日々の生活に追われ、庭を眺めたり、手入れをしたりする時間的・精神的な「余裕」が、社会全体から失われているのかもしれません。

安田

ふーむ。まさにその「心の余裕」という言葉がキーワードな気がします。余裕がなければ、お庭の手入れもできなくなり、結果的に「庭なんてない方が楽だ」という発想になってしまう。


中島

悪循環ですよね。我々作り手としても、その価値をどう伝えていけばいいのか、日々模索しているところです。

安田

ただ希望もあると思うんです。これからは新築よりも、空き家などを安く購入してリフォームする人が増えていくはずですよね。


中島

確かに。新築の価格が高騰していますし、一方で空き家は増え続けて社会問題にもなっていますからね。

安田

ええ。格安で家を手に入れて、浮いた予算を自分たちの好きなようにリフォームや庭づくりにあてる。そういう賢い選択をする人が、これからは間違いなく増えてくる。その時に建物だけでなく「庭も素敵にしたい」と思ってくれる人がどれだけいるか。

中島

そうですね。それが日本の景観の未来を左右する、と言っても過言ではないかもしれません。コンクリートだけの殺風景な庭ばかりが増えていくのは、やはり寂しいですから。

安田

手入れの行き届いた素敵なお庭がたくさんある街って、イメージ的にも犯罪が少なそうじゃないですか。街全体が穏やかで、人の心にも余裕が生まれるような。


中島

そう思います。間違いなく、景観は人の心に影響を与えますから。

安田

そう考えると、やはり多くの人が人間社会の中で少し息苦しさを感じているのかもしれませんね。人との比較や評価から離れて、もっと大きなものの一部だと感じられる時間が必要というか。そのための最も身近な装置が、“プライベートな自然”である庭なんだと思うんです。


中島

確かにそうですね。庭で木や土に触れていると、難しいことは忘れて、頭がすっきりしますから。そういう時間が、今の時代には必要なのかもしれません。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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