第117回 庭師が「人間国宝」を目指すべき理由

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第117回 庭師が「人間国宝」を目指すべき理由

安田

人間国宝」の対象が拡大されたのはご存知ですか? これまでは芸能とか工芸技術のような分野で選ばれるものだったんですが、近々それに「生活文化」が加わるらしくて。


中島

へえ、それはどういうものが対象なんですか?

安田

例えば日本食の料理人とか、日本酒を作っている杜氏さんとか。他にも書道家や華道の先生といった方々とかね。


中島

は〜、なるほど。ずいぶん幅が広がるんですね。

安田

そこで思ったんですが、いっそのこと、中島さんも人間国宝を目指しませんか。伝統文化の継承という意味では、十分にいけると思うんですけど。


中島

ええ? どうでしょう…そんなこと考えたことなかったので、全然イメージがわきません(笑)。

安田

笑。いやでもね、認定基準は「芸術的に価値が高い」ことと「歴史上特に重要な地位を占めている」ことなんですよ。日本の庭園なんてまさにそのど真ん中じゃないですか。


中島

確かに、日本の庭園も歴史的な価値に深く関わっていますね。

安田

でしょう? さらに生活文化については「高度に会得している人」で、「正しく会得して精通している」という基準もあるらしいんです。この制度を作ることで、「そういう仕事に就きたいと思う人を増やす」という目的もあるそうで。


中島

ああ、なるほど。確かに庭師の業界にとっても、後継者不足は切実な問題ですからね。

安田

そうですよね。だからこそ中島さんのような熟練の庭師が認定される可能性も十分あるんじゃないかと思いまして。いやむしろ、庭師の中から必ず数人は選ばれるだろうと私は踏んでいるんですが。


中島

もし入るとしたら、私もいつもお世話になっている京都の会社の会長が入るかもしれません。「誰もが知っている有名な庭園」を多く手がけた人なので。それに比べて僕はお客様のご自宅のお庭を作らせていただくのが中心なので、あまり注目されないんじゃないかなぁ。

安田

ああ、つまりもっと本格的な日本庭園というか、それこそ有名なお寺とか歴史的な建物の庭を整備しているような人の方が可能性が高いと。


中島

そう思います。もちろん僕もそういう伝統的なお仕事にも関わらせていただいていますが、京都の会長のネームバリューほどではないというか。なにしろ会長は「京都迎賓館」や「伏見稲荷大社」を手がけていますから。

安田

ははぁ、それは確かにインパクトがありますねぇ。京都の会長さんのところは、一般的な住宅の庭とかはあまりやらないんですか?


中島

いえ、やらないわけではないですが、どちらかといえば大規模な案件中心ですね。それこそ「300坪の敷地に大きな日本庭園を作りたい」というようなご依頼とか。

安田

300坪ですか! いやでも地方に行けば、今でもそれぐらいの家はありますかね。

中島

そうですね。ただ、これが京都の市街地で300坪ですから。維持されるだけでも並大抵のことではないと思います。

安田

それほどになれば相続税だけでも大変なことになりますよね…。家自体が国の重要文化財か何かに指定されてそうですけど。

中島

そうかもしれませんね。それこそ伝統芸能の家元のご自宅だったりするので。

安田

なるほどなぁ。それにしても、300坪の家の手入れなんて自分じゃ絶対に無理ですよね。庭の手入れだけで、年間いったいいくらかかるんだろう……

中島

純粋な日本庭園はやっぱりメンテナンスが必須ですから、月に1回は職人が入っていると仮定すると、かなりの金額になるでしょうね。

安田

でもそういう方たちって、本当に限られた人たちじゃないですか。「人間国宝」の対象を拡大した狙いとして、先ほども言ったように「マーケット自体を大きくして働く人を増やしたい」という思いがあると思うんです。

中島

確かにそうでしょうね。そういう意味ではより広い範囲にアンテナを張ってくれそうではあります。

安田

そうそう。だから中島さんの人間国宝も、決して夢物語ではないと思うんですよ。個人的にも「借景」の文化などがもっともっと広まったらいいと思ってますから、ぜひ選ばれてほしいなぁと。

中島

うーん、ありがとうございます(笑)。でも確かにそうなったら、今以上にいろいろな庭造りに関われそうですもんね。

安田

そうですよ。ということで、私は中島さんを人間国宝に推薦したいと思います。審査員の方、ぜひよろしくお願いします!

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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