第119回 庭師が教える、木の根と土の深い関係

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第119回 庭師が教える、木の根と土の深い関係

安田

木の生命力ってすごいと思うんですよ。例えば切り株みたいに上は何もなくなっても、根っこさえ生きていればまた芽が出てきたりするじゃないですか。そう考えると、土の中に埋まっている根っこの部分こそ本体なんじゃないかという気がして。


中島

そうかもしれませんね。実際、木をきれいに成長させるにも、根っこの部分が一番大事です。

安田

ああ、やっぱり。人間の場合は脳みそが本質ですけど、木の場合は根っこが命の元なわけですね。庭師のお仕事としても、根にはやっぱり気を遣いますか。


中島

仰る通り、かなり気を遣いますね。土地の水はけが悪いと、根が腐ってしまう「根腐れ」を起こして、うまく根づかないということも多くありますから。もともと田んぼだったところを埋め立てて宅地にしたような土地だと、そもそも土が粘土質だったりもするんです。

安田

ああ、なるほど。そういう時は土を入れ替えたりするんですか?


中島

いえ、土を全部入れ替えるとなるとコストがかかりすぎてしまうので、植える場所の土をできるだけ盛って、高くして植えたりとかですね。

安田

ははぁ、なるほど。いわゆる「盛り土」をするわけですね。でもそうやって盛ったとしても、その土の層よりもさらに下、つまり根が育たない粘土質のところまで伸びてしまうことはないんですか?


中島

多少は下に行きますね。でも盛り土した上の部分で水が切れれば大丈夫です。

安田

根自体は深く伸びていっても、盛り土したところでちゃんと水はけができていれば、木は育つんですね。


中島

そういうことです。ただ一概には言えなくて、本当に場所によるんです。例えば関東は関東ローム層といって、どこを掘っても結構サクサクなんですよ。よく千葉とか茨城で地震があると電柱が傾いたりしますけど、あれは土が柔らかいからなんです。

安田

ああ、人間が家を建てて住むのには苦労するけど、木にとってはいい環境だと。


中島

そうなんですよ。ふかふかな方が、根っこをグングン伸ばしやすいですからね。

安田

なるほど。土がふかふかだと、電柱だけでなく木も倒れたりしそうですけど、そんなことはないと。


中島

そうなんです。だから、関東で仕事をしていた頃は、植栽するために「土を買う」という感覚はありませんでした。岐阜に戻って、驚いたことの一つです。

安田

へぇ、ということは、岐阜は土が硬いんですか。


中島

ええ。岐阜はもともと山地なので、運動場の砂みたいなものに砂利が混ざっているような状態の土地が多いんです。3軒に2軒は土を新しく入れてあげないと植栽ができないくらい。

安田

へぇ、それは大変だ。つまり土壌の部分が薄くて、掘るとすぐに下の岩とか石みたいな層が出てきちゃうわけですね。ちなみに土を入れ替える場合は、どこの土を持ってくるんですか?

中島

畑の土、いわゆる黒土も売ってはいるんですけど、あれはすごくお金がかかってしまうんですよ。なので僕の場合は、山の砂を買ってきて、そこに肥料を混ぜてオリジナルの土を作って植えてます。

安田

土までオリジナルで作るんですね! すごいなぁ。肥料をたくさん入れれば、それだけいい土になるわけですか?

中島

それが難しいところで。入れ過ぎたら入れ過ぎたで、木が伸びすぎてしまうんです。バランスを加減しながら混ぜないといけません。

安田

なるほどなぁ。でも逆に言えば、土に混ぜた肥料の量で成長が明らかに変わるということは、それだけ栄養を根っこから吸収していることの証明でもありますね。

中島

そうですね。葉っぱ自体に散布するタイプの栄養剤もありますけど、基本的には根っこから吸収させるものが多いですね。

安田

人間の感覚からすると、目に見えない部分が木の本体であるって、不思議な感じがしますけど。まぁ構造的に考えれば、根がしっかり張れていないと倒れちゃうわけで、そりゃ一番大事だよねというのもわかります。

中島

そうなんですよ。意外と知られていないんですが、木の成長って、上の伸び方と根っこの伸びるスピードが比例してるんです。成長の早い木は、根っこの伸びるスピードも速い。

安田

ああ、なるほど。じゃあ中島さんがよく選ぶ「成長が遅い木」は、根の伸びも遅いわけですね。ちなみに先ほど出ていた「ふかふかの土」の件ですが、やっぱり素人の感覚だと、柔らかい土だと木も倒れてしまいそうな気がするんですけど…

中島

それでいうと、植えた直後は隙間が空いている状態なので、植えてから固める作業をします。「水締め(みずじめ)」というんですが、木の周りに土手を作って、そこに水をたっぷり溜めてあげるんです。そうすると春から夏にかけてぐんぐん根を伸ばしていくんですね。

安田

ははぁ、なるほど。やはりそういう技術があるんですね。

中島

そうなんです。そうやって土と根をちゃんとくっつけてあげる。完全に根付くまでには3年かかるんですが、1年も経てば倒れることはなくなると思います。

安田

面白いです。「ふかふかなんだけど、隙間がなくてピッタリくっついている」という状態にするんですね。安心しました(笑)。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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