庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。
第79回 日本の美意識を育てる「借景巡り」

ですよね(笑)。中島さんが作るお庭って、近所を歩いているだけで素敵な景色になっていると思うんです。つまり、その家に住んでいる人にとっては外の景色が借景になるのと同時に、近所の人にとってはその家の庭が借景になるということですよね。

私はその感覚をもっと広げていきたいんですよ。「自分の家の庭」だけじゃなく、街全体を大きな景色として捉えるというか。だから「借景巡りロードマップ」みたいなものを作ってホームページで紹介するのはどうかなと思って。

そうですよね。direct nagomiさんのある岐阜の美濃加茂市に限定して、「美濃加茂借景巡り」にしてもいいし、岐阜まで拡大して「岐阜借景巡り」でもいいと思うんです。

そうそう。「歴史を学びながら借景を楽しむ」なんてことができたら最高ですよね。中島さんご自身も、普段から勉強の一環で山や街を歩いたりしているじゃないですか。そこで印象に残った景色を発信することで、それを見た方の感性を育てることにもつながる気がして。

そうなんです。景色って無料で楽しめるうえに、心を豊かにしてくれるものでしょう? スマホばかりに目が行きがちで、景色を見るゆとりがなくなってきている中、「借景」という日本の大事な文化を思い出すことが必要なんじゃないかと。

ええ、まさに。とはいえそこまで重く考える必要はないと思うんです。あくまで趣味の延長のような感じでいい。例えば「この3本目の木の右側に立って、この方向に向いて写真を撮ってみてください」みたいなガイドがあったら、楽しいじゃないですか(笑)。

そこまで細かく指定するんですね(笑)。でも確かにやってみたくなります。実際、僕もお庭を作っていて、ふとした瞬間に「いい景色だな」と感じることがあるんです。でもなかなか写真を撮るところまではいっていなくて。今思うともったいないことをしたかもしれません(笑)。

いいですね。もう今は「早い・安い」が最優先という時代でもなくなってきましたからね。テクノロジーの進歩も海外の方が進んでいるし、景色や建物との調和を楽しむ感性こそが「日本の魅力」となっていくのかもしれないなと。
対談している二人
中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役
高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。