第91回 庭の本質は「冬」に出る

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第91回 庭の本質は「冬」に出る

安田

中島さんはガーメントデザイナーとして、「家に服を着せる」というイメージで庭を作っているということでしたよね。前回、「四季のある庭」という話が出ましたけど、春夏秋冬で服が変わるように、庭も装いを変えるということなんでしょうか。


中島

そうですね。特に冬場は気を使います。葉が落ちるなどの変化があるので、味気ない景色にならないよう、成長が緩やかな木や常緑のものも入れて工夫しています。

安田

ははぁ、確かに冬になると急に「何もない庭」になっちゃう家も多いですもんね。電信柱みたいな木が並んでるだけみたいな。どうしてああなっちゃうんですかね?


中島

いろいろ理由はあるんですけど、庭を作った業者さんが木の選び方を間違えていることも多いんですよね。成長が早い木を植えちゃって、結果電信柱みたいな状態になってしまう。あとは単純に剪定技術がなくて、枝を切りすぎちゃってるケースとか。

安田

ははぁ、なるほど。そういうことなんですね。中島さんならそういうことは絶対しなさそうですけど。


中島

そうですね。できるだけ成長の遅い木をオススメするようにはしています。剪定に関しても、切った所がわからないくらいの自然な仕上がりを意識しています。あとは季節ごとの表情を考えますよね。どの季節にも見どころがある庭にしたくて。

安田

なるほど。とはいえ「春」「夏」「秋」「冬」って、そんなにキッパリ分かれてるわけじゃないですよね。その間の“揺らぎ”も面白いというか。


中島

そうですねぇ。例えば春の中でも早春と晩春で景色が違いますし、木の成長で3年後の春はまた違った印象になる。春の花も一斉に咲くわけじゃなく、順番に咲いていくので、少しずつ景色が移ろうんですよね。

安田

ということは、「ある時点でパッと着替えるというより、ちょっとずつ表情を変えていく感じなんですね。四季どころか、月ごとに表情が変わる庭といってもいいかもしれない。


中島

仰るとおりです。日々の変化があるからこそ、「毎日見たい」と思っていただけるお庭になると思っています。

安田

確かに確かに。でもそこまで細かな変化があると、「四季のある庭」という表現ではシンプルすぎる気もしますね。まるで「年に四着しか服がない」みたいな感じがすると言うか(笑)。


中島

そう言われてみるとそうですね(笑)。

安田

今日は夏だけど曇りだから薄手のカーディガンを着よう、みたいな。そのレベルの繊細さがあると、庭にも奥行きが出ますよね。


中島

そうですね。冬でも少しだけ花が咲いていることもあるので、そういう小さな彩りを表現できるといいんですが。

安田

ふむふむ。日々の小さな変化を発見できる喜びもありますよね。先程も仰っていましたが、同じ春でも年ごとに違った表情を見せてくれるわけで。


中島

そこがまたおもしろいところなんですよね。あとは香りでも変化が感じられるように、花を咲かせる木々を植えたりもしています。

安田

いいですねぇ。風に乗ってふわっと香ると、それだけで癒されますもんね。それに木があると外からの視線を遮る目隠しとしても機能してくれる。


中島

仰るとおりです。外から見えても目が合わないような、でも気配はわかる、そんな距離感が大切なんですよね。

安田

わかります。完全にコンクリートの壁で遮っちゃうと味気ないし、でも丸見えも嫌だし。ちょうどいい「透け感」があるのが理想なんでしょうね。うーん、ますます「四季のある庭」って言葉じゃ表現しきれない気がしてきました。「365通りの庭」みたいな。

中島

ああ、いいですね。実際、毎日のように表情が違うので。50~60坪くらいの庭なら、小さなものも含めて10種類以上は咲くように設計したりしますし。

安田

へぇ、すごい。ほぼ毎月何かしら咲いてるということですよね。


中島

そうですね。冬は多少寂しくなりますが、それでも枝ぶりの美しい木を選べば、雰囲気は出せます。個人的には、冬こそ「その庭の本質」が出ると思うんです。

安田

ああ、なるほど。服ではごまかせない、その人の体型が出る季節、みたいなことですね(笑)。人間だとそれは夏だけど、庭だと冬なわけですね。

中島

確かにそうですね(笑)。だからこそ、最初に植える木の選び方が本当に大事なんです。冬は庭を見たくもない、っていう状況は避けたいですから。

安田

錆びた物置が見えていたら、誰だって出たくなくなりますもんね。でも中島さんの庭なら、冬でも家の中からふと見たくなる。贅沢な空間ですよね。

中島

そうですね。冬に美しく見えない庭は、やっぱり本当にいい庭とは言えないと思います。

安田

なるほどなぁ。庭の本当のよさは冬にわかるということですね。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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