第92回 「野面積み」の技術は日本の大切な資産

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第92回 「野面積み」の技術は日本の大切な資産

安田

以前お話を聞いた野面積みというのがすごく気になってまして。自然石を加工せず積み上げる工法だということですが、かなりの技術がいりますよね。


中島

そうですね。しかも使う石の量も多くコストが嵩むので、公園などの公共の施設でないと取り入れにくくなっていますね。最近は本当に石材が高騰しているので。

安田

ヨーロッパのアーチ型の橋とかありますけど、セメントを使わず石の重みだけで組んでいるんですよね。それで何百年も落ちていない。あれに近い考え方なんでしょうか。


中島

近しい部分はあると思います。あとはデザイン的な技術も必要なんですよね。30センチくらいの分厚い石と、10センチくらいの小さめの石を組み合わせて模様を作っていくので。どういうデザインにするか、そこが職人の腕の見せどころでもあって。

安田

へぇ。大小の石を組み合わせるんですね。ちなみにこの工法で使う石は、積みやすいものを選別して仕入れるんですか?


中島

いえ、「このくらいの大きさの石を何キロ」という感じで注文します。ですからある意味出たとこ勝負というか、現場にあるものをその場で見ながら加工して積むことになるんです。

安田

そうなんですか! それはかなりセンスが必要でしょうね。職人さんの感性が試される場なわけですね。


中島

そうなんですよ(笑)。大・中・小をどうバランスよく使うか。あとは積み方にもいろいろ決まりがあるんです。「四つ目地」といって、石の合わせ目が十字になっちゃうと駄目だとか。

安田

は〜、なるほど。規則を守りながら美しく仕上げるって、かなり高度な作業ですよね。ちなみにこの工法をやるための資格とかがあったりするんですか?


中島

ないですね。学校やマニュアルで学べるものでもないので、完全に職人さんの腕頼りです。現場によっては「経験者」というだけで任されるケースもありますが、施工を見ればすぐに技術の差はわかります。

安田

ふ〜む、自分の家でやるならしっかりした人にやってもらいたいですね。後からガラガラと崩れてきたら怖いですし(笑)。ちなみに美しさと強度って比例するものなんでしょうか?


中島

すると思いますね。見た目の美しい石積みは、構造としても安定しているので。ちなみにマニアックな話をすると、横に長く積んでいくのが基本なんですが、どうしても縦に積んでしまう人がいるんですよね。そうすると崩れやすく見た目も悪くなってしまう。

安田

は〜、なるほど。いやでも本当に国家資格とかにしてほしいですよ(笑)。そうじゃないと安心して毎日過ごせない。


中島

実際それくらいのことですよね。ちなみに昨今は、後から崩れないようコンクリートを入れることも多いです。公共事業は特にそうですね。

安田

なるほど。うーん、安全性を考えると仕方ない対応なんでしょうけど、それだと本来の技術とは違う感じもしちゃいますね。安全かつ昔の工法でやってほしい、という要望はワガママ過ぎますかね?


中島

全くコンクリートを使わずに土だけで固定する「崩れ積み」という方法もありますよ。野面積みだと横長に積んでいくのに対して、崩れ積みは縦に差し込むように積んでいくんです。その分、さらに高い技術が必要になりますが。

安田

は〜、いろいろな技術があるんですね。それにしても、今インバウンドがどんどん増えてますし、日本好きな外国人観光客に向けて「石積み」をPRしてもいいかもしれませんね。

中島

そうですね。ヨーロッパの石橋を見に行くのと同じように、「日本の石積み」をたくさんの方が見に来てくれたら嬉しいですね。実際、この技術は日本の大きな資産だと思いますし。

安田

ちなみにコスト的にはどれくらいかかるんですか? かなり高そうな気はしていますけど。


中島

1メートル角で10万円くらいですかね。野面積みの場合は加工する費用もあるので、さらに高くなります。その分整った美しさはありますが。

安田

は〜、なるほど。でも、必要な技術と手間を考えたら、そこまで高くもない気もします。一般的な家ではなかなか取り入れられないとは思いますが。

中島

そうですね。それだけで数百万円くらいのコストになるので、なかなかいらっしゃらないと思います。

安田

そうか。じゃあやっぱり公共事業に頑張ってもらいたいですね。観光立国になるためには必要な投資な気がします。

中島

同感です。何百年と残るものだからこそ、その価値はありますよね。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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