第14回 基礎練習は必要?〜溺れるアザラシの話

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第14回 基礎練習は必要?〜溺れるアザラシの話

安田

社会人になる前のことをお聞きしたいんですけど、学生時代はクラブ活動とかされてたんですか?


西崎

やってましたね。小学校ミニバス、中学もバスケ部で、高校入って膝を壊しちゃったんで続けられなかったんですけど。

安田

ははぁ、なるほど、頑張ってらしたんですね。私は中学で卓球部に入ったんですが、すぐにクビになっちゃって(笑)。


西崎

クビとかあるんですか(笑)。どうしてそんなことに。

安田

なんかね、卓球がしたくて入ったのに、最初走り込みとか球拾いとかばっかりなんですよ。


西崎

まぁ……そういうものですけどね(笑)。

安田

「そうか、最初はこういうつまらないことをやるんだ」と思って、行かなくなって。それが終わって皆がサーブを打ち始めた頃に、「よし、やっと卓球ができる!」と行ったんですけど……なぜか先輩にえらく怒られまして。


西崎

そのエピソード、本で拝見しました(笑)。

安田

あ、そうですか(笑)。でもね、私も思うところがあって言い返したんです。「球拾いなんかしても卓球はうまくならないと思う」って。


西崎

うわぁ(笑)。さらに怒られるやつだ。

安田

まさに仰るとおりで、散々説教された挙げ句、「お前はもう来なくていい」と。それでクビですよ。……まぁ、今となっては、球拾いや走り込みのような下積みもね、それなりに大事かなぁと思えるようにはなったんですけど。


西崎

ちょっと丸くなってるじゃないですか(笑)。

安田

まぁねぇ(笑)。ちなみに西崎さん的にはどうだったんですか? バスケ部でちゃんと下積みをしたんですか。


西崎

僕は下積み、いわゆる基礎練習も好きだったんで。球拾いとかも、「誰が一番多く取れるか」みたいにゲーム感覚で楽しんでましたね。

安田

へぇ、そうなんですね。そういえば昔テニスのコーチに聞いたことがあるんですが、生徒には2種類の人がいるらしいんです。


西崎

ほうほう。

安田

まずロジック重視の人。「体はこういう仕組みだからこう構えてこう打つとスムーズに力が伝わるんだ」みたいに説明すると、「なるほど!」となって上達していく人ですね。


西崎

ああ、なるほど。

安田

もう一つは、何も教えずとにかくラケットを渡して、その人の好きにやらせた方が上達が早い人。これを見極めて教え方を変えるらしいんですが、この話を聞いて私はまさに膝を打つ思いだったわけですよ。


西崎

あ、もしかして卓球部の……

安田

そう! だから私はきっと後者だったんです。好きなことを好きなようにやらせてほしかった。でも先輩は「新入生がサーブなんて生意気だ」なんて言う。


西崎

まぁ、日本はそのへん保守的ですからねぇ。でも僕も、人に合わせて教え方を変えるというのは賛成です。考え方も性格も一人ひとり違うわけですから。

安田

そうですよね。日本の教育現場にもそういう柔軟さが欲しいですね。そういえばいま思い出したんですけど、面白い話があって。


西崎

はい、なんでしょう。

安田

昔、古武術研究家の甲野さんっていう方と対談したことがあるんです。ジャイアンツにいた桑田投手に牽制の方法を教えたすごい人なんですが、その方の仰っていた「アザラシとオットセイの話」がすごく印象的で。


西崎

へぇ、気になります。

安田

アザラシもオットセイもすごく泳ぎがうまいんです。なぜならそうじゃないと魚が獲れないからですね。すごい不規則に泳いだり、急ターンをしたりできる。


西崎

はいはい。

安田

でもね、生まれてすぐに親から離して、浅いプールかなんかでパチャパチャさせて育てた子って、大きくなって海に放り込むと溺れちゃうんですって。


西崎

へえ! つまり泳ぎ方を教えてもらっていないから。

安田

そうそう。ただここからが興味深いんですが、同じことを犬とか猫にすると、彼らはなぜか泳げるんです。


西崎

えっ、そうなんですか? 泳ぎ方を教わってないのに?

安田

そうなんですよ。甲野さん曰く、それは「犬とか猫は泳ぎ方が本能に刷り込まれているからだ」と。


西崎

へえ~、それはどうしてなんですかね。

安田

犬とか猫って、基本的に陸で過ごしているでしょう? つまり水に放り込まれることって滅多にない。つまりそういう時は危機的状況なんです。だからその危機を生き延びるために、とりあえずの泳ぎ方、犬かきとか猫かきとかを本能に書き込んである。


西崎

ははぁ、なるほど。

安田

でもオットセイとかアザラシって、犬かきだけできても魚なんて獲れないでしょう? もっとテクニカルなスキルが必要になる。でも、そういう複雑なものって本能には組み込めないんですって。


西崎

なるほど! 後天的にしか覚えられない。

安田

そうそう。で、人間っていうのはその最たるものなんだと。本能レベルでできることは限られているけれど、逆に言えば、後天的にどうとでも学んでいける。そういう汎用性の高い素材を持って生まれてくるんだと甲野さんは言うわけです。


西崎

ははぁ、おもしろい話ですね~。

安田

そのせっかくの素材を活かすには、画一的な基礎練習より、さっきのテニスじゃないですけど、「好きにやらせる」のが一番いい。「最初は球拾いだ!」なんて言うんじゃなくて、「サーブが打ちたいなら、自由に打ってみろ!」とやればいいんです。


西崎

卓球部時代の安田さんは、そう言ってもらいたかったと(笑)。

安田

そうですよ。そうした方がよかったことが、甲野さんという専門家によって証明されたわけです(笑)。


西崎

いや、楽しいお話です。でも考えてみれば、ビジネスもそういうところありますよね。結局、座学だけでは限界があって、自分で実際に体験して学ぶことのほうがはるかに重要で。

安田

そうなんですよ。そういう意味でも日本の教育って変なんです。ビジネスで成果を出せる人を育てたいなら、基礎練習より「自由に体験させて学ばせる」ことの方が絶対に効果がある。


西崎

そうやって初めて、狩りのうまいオットセイになれるというわけですね。

安田

仰るとおりです。寄り道ばかりのお話にうまくオチをつけていただき、ありがとうございます(笑)。

 


対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数18万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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