第71回 これからの中小企業はスケールアップを目指すべきか

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第71回 これからの中小企業はスケールアップを目指すべきか

安田

今日は「規模を拡大していくこと」についてお伺いしたくて。今後、中小企業が生き残っていくためには、ある程度の規模まで成長させて、スケールメリットを効かせるところまで持っていかないと難しいんじゃないかと言われていますよね。


西崎

ああ、なるほど。確かにそういう話を聞きますよね。安田さんはどう思われます?

安田

商品を仕入れて売る、人を雇って働いてもらって利益を上げる——そういう他社が真似しやすいモデルはやっぱり差別化しづらいですからね。となると、ある程度の規模感を追求しないと厳しいし、社員の給料もなかなか増やせないから人も集まらない。そういう意味では言う通りかなと思います。


西崎

なるほどなるほど。

安田

ただ私としては、だからこそ「大きくしない」という選択肢もあるんじゃないかと思うんです。つまり、小さいけれども、百人に一人、千人に一人に強烈に刺さるような、ものすごいオリジナリティと付加価値で勝負するというね。


西崎

ああ、確かにそっちはそっちで成り立ちそうです。

安田

西崎さんとしては今後どちらの道を取ろうと思っています?


西崎

うーん、なかなか難しい問いですね。というのも、「オモシロイ会社を追求すること」と「規模の拡大」って、結構反比例するなって思っていて。ただ一方で、もっとフィールドは広げていきたい。実際ブランディングサービスだけじゃなくて、企業のブランドスコアを可視化するとか、自社のプロダクトやサービスを作るとか、そっちの事業も始めているわけで。

安田

なるほど。「オモシロイ会社」でいるためには小規模の方がよさそうだけど、やりたいこと、やっていることはどんどん広がっているから、ある意味では「組織拡大せざるを得ない」と。悩ましいですね(笑)。


西崎

そうなんです(笑)。なので「あ、これは一社でやるのは難しいな」という規模になったら、事業ごとに分社化して、それぞれに責任者を置いて、グループ全体として「オモシロイ」を追求していく。そんなイメージはありますね。

安田

ああ、私もそうするのがいいんじゃないかと思いますね。冒頭の話のように合併やM&Aで規模を拡大していく中小企業もあれば、規模を追わず独自性で勝負して生き残る会社もある。それでいいと思うんですよね。


西崎

確かに。別に全部の会社が同じ方針を取る必要はないわけで。

安田

まぁともあれ、拡大路線をとったところで生き残れるのはいいところ2割くらいじゃないかと思います。多くの中小企業って、やっぱりスタンスが下請け的だったりして、事業自体もずーっと変わらぬまま続いていたりするじゃないですか。そういうところは遅かれ早かれ行き詰まるんじゃないですかね。


西崎

そうかもしれません。実際淘汰はもう始まっている印象ですしね。僕ら自身がどんどん新しい事業やサービスを立ち上げているのも、そうならないよう意識しているからです。起業当時のいわゆる普通の営業会社のままだったら、今はもう生き残れていないと思いますもん。

安田

なるほど。ちなみにその営業中心の時代から、どんどん「選ばれる会社」になっていったわけじゃないですか。それが実現するまでに何年くらいかかりました?


西崎

ガンガン新規営業をやってたのは、今の事務所に移る前なんで、7年くらい前ですね。当時はうちのことなんて誰も知らなかったので、とにかく売上を作らないとっていうことで、営業社員も10人ちょっといて、67割は営業。そんな状態でした。

安田

なるほどなるほど。まぁ新しく会社を立ち上げて黒字化するには、やっぱりガンガン営業するのが一番早いですからね。実際、周りの若い経営者さんで、そこそこ大きくなってうまくいってる方たちって、営業力で成り上がってきたケースが圧倒的に多いと思うんですよ。


西崎

わかります。「最初から頭を使って、選ばれるサービスから起業しなさい」と言われても実際は難しいですもんね。僕が起業した時も、まったく何もない状態からのスタートだったので、経営経験もなければ資金もない。当然最初は、頭を下げながらお客様に「お願いします」って営業していましたし、お客さんを選ぶなんてとてもできなかったです。

安田

現実的にはそうですよね。そういうフェーズがあってだんだんと独自路線に進んでいけるというか。


西崎

そうそう。今またゼロからスタートしても同じことをやると思いますが、かといってそこに留まっていてはダメなんですよね。

安田

でもそこに気付いていない会社も多いですよ。「営業力や売上がすべて」っていう文化のまま、営業以外の強みを探してもいない。ある程度まではそれでもいいんでしょうけど、どこかで必ず頭打ちになってしまう。


西崎

ええ。特に情報がこれだけ手に入りやすくなったこの時代には、「とりあえず営業力で押し切る」みたいなやり方がどんどん通用しなくなってますよね。

安田

そうそう。ちなみに私、20年くらい前から「営業という肩書きはなくなる」って言ってきたんですけど、最近は営業されるのが嫌な人も増えてきましたよね。それでも、営業をガンガンやってる会社のほうが短期的には売上が伸びているように見えるし、一気に切り替えるのって勇気が要ると思うんですよ。


西崎

まぁ徐々にシフトしていけばいい気もしますけどね。クライアントさんにも「営業が好調な今だからこそ、並行してサービスの強化を進めた方がいいですよ」と提案したりしますし。そうすればリピートも増えるし、競合との差別化にもなりますよと。

安田

ああ、なるほどなるほど。ただ難しいのは、社長自身が「何より営業が好き」っていうパターンもあるんですよね(笑)。「ビジネスは営業だ!商品開発なんて逃げだ!」みたいな。


西崎

ああ……確かに(笑)。

安田

なのでなんとも普通な結論になってしまいますが、やっぱり社長の考え方次第なんでしょう。


対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数19万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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