第78回 安売りで失うもの

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

以前にこのコラムで何度か書いていますが、私は開業した時に価格を地域最安値にすることで集客をしようと考えました。

その価格に決めた時、私はこう考えていたことを覚えています。
「安売りすれば儲けは減るけど我慢しよう」と。

価格を安くすれば、当然商品1つあたりの儲けは減ります。
ただ、その分多くの人に来てもらえれば、たとえ商品1つあたりの儲けが減ってしまったとしても取り返せる、と考えた訳です。これは、安売りを考える人に共通する思考なのではないでしょうか。

結果、私は安売りでの集客に失敗し、逆に値上げをすることで繁盛するお店を作ることができたのですが、そこに至るまでに1年半もの期間を費やしてしまいました。

その1年半の間、私の頭の中を占めていたもの。
それは儲けに対する不安。

商売は儲けを抜きにしては考えられません。
ですから、儲けが出ない時に儲けの心配をしてしまうのは私だけではないはずです。

ただその後、何とか繁盛するお店を作ることができて、満席になった店内を見た時、私の中に湧いてきた感情は、意外にも儲けが増えることへの喜びではありませんでした。

その時に湧いてきた感情。
それは「お客さんと自分の価値観の一致」という喜び。
自分が考えた価値を自分が納得できる価格で評価してくれるお客さんがいると実感できた事に対する嬉しさ。

これは逆を返すと、安売りをするという事は、自ら「お客さんと自分の価値観の不一致」を生み出す行為であり、自分が感じている価値を価格に反映せずに売るから、売れても楽しくないのだということです。

私たちは安売りを考えた時、儲けが減ることばかりに意識が向きがちです。
ただ、それと同じくらいに問題なのは、自分の考えた価値を安売りしてしまうことで、お客さんと自分の「価値観の一致」という、商売の喜びや楽しさ自体を失ってしまうことなのではないでしょうか。

自分の感じる価値を価格に反映して売るからこそ売れると楽しいのであり、安売りとは儲けだけでなく、商売の楽しさも失う選択肢なのだと、今は思うのです。

 

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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