第134回 安売りはお客さんの為になるのか?

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

 

商売をする上で安売りを考えるお店が多い理由。
それは「安いほうが売りやすい」というお店側の都合だけではなく、「安いほうが得をする」というお客さん側の気持ちを汲み取って安売りをしている部分もあるのではないでしょうか。

事実、私もこうした思いがあったからこそ、起業時に安売りの商売を選択した訳です。
ただ、それから20年が経った今、改めて当時の選択を振り返ってみると思うのです。

「安売りとは本当にお客さんの為になるのだろうか?」と。


私がこの疑問を持つようになったきっかけ。
それは、開業して2年くらいが経ち、お店を繁盛させることができた頃の経験にあります。

当時、カウンター越しに接客をしていた時に、私はふと「ある事」に気がつきました。
それが「お店を好きで使ってくれている顧客ほど、価格をほとんど気にしていない」という事実。

これはつまり、顧客にとってお店を選ぶ基準の中で価格の優先順位が低いと言える訳であり、見方を変えれば「価格以外の何か」がお店を選ぶ基準の上位にあったということです。

実際、その頃には駅前に都内最安値を謳うチェーン店が進出してきた事もあり、価格だけでお店を選ぶのならば、私のお店に選ばれる理由はありませんでした。

では、私のお店を使ってくれる顧客がお店を選ぶ基準とは何だったのか?
その答えは顧客に直接聞いた訳ではないため分かりません。

ただ、当時の私が接客しながら見ていた限りで推測するのであれば、その答えこそ私が提供したかった「お店で過ごす時間体験」であり、そう考えれば、起業時の私がやるべきだったのは「顧客にとって優先順位の低い安売りで儲けを減らすこと」ではなく、むしろ「顧客に提供する時間体験をより高める投資をするために儲けを増やすこと」だったと思うのです。

「お客さんのために安売りをする」

この考え方は一見、お客さんに損をさせない顧客志向にも見えますが、お客さんの求めるものが安さであると勝手に決めつけ、そんな先入観で儲けを減らし続けた結果、自分の商売が終わってしまうような事があれば、それこそお店を好きで使ってくれている顧客にとって「本当の損」なのではないでしょうか。

自分のお店が顧客に対して価値ある商品を提供していると思うのならば、やるべきなのは儲けを減らすことではなく増やすこと。

もし、私が開業時のまま安売りをしていたら、間違いなく現在まで商売を続けることはできなかったと思うと同時に、今も毎日お店を使ってくれるお客さんたちを見る度に、やはり儲けを減らすことよりも増やすことを考え、お店を営業し続けることこそが長期で考える顧客にとっての「本当の得」なのではないか、と私は思うのです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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