本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 |
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。 |
私はウイスキーを好んでよく飲みます。
でも、昨今の世界情勢からその他の商品と同様、大幅な値上げが続いています。
そんな値上げの情報を見ていて、ふと思ったのです。
「ウイスキーと全く同じ味で、早く安く大量生産が可能なお酒ができたら、自分はそれを飲むのだろうか?」と。
以前のコラムでも書きましたが、ウイスキーは短期間で大量生産することができません。
その理由は、何年もの期間をかけて樽の中で熟成させる必要があるからです。
「何年ものあいだ樽の中で熟成させる過程で、木樽の成分が本来透明だった液体に溶け出し、美しい琥珀色になる」
私はこのウイスキーができるまでの過程を初めて知ったとき、一気にウイスキーが持つストーリーに引き込まれました。つまり、私は味だけでなく、その商品ができるまでの過程に価値を感じている訳です。
だから、「同じ味で、早く安く大量生産が可能なお酒ができたら、自分はそれを飲むのか?」と考えてみると、確かに興味はあるので少しは飲むかも知れませんが、「長い年月をかけて熟成させる」という過程を持たない商品を、ウイスキーの代わりとして継続して飲みたいとは思えないのです。
そして、思うのです。
この「商品が持つ過程を買う」という価値こそ、小規模経営が強みを発揮できるところなのではないか、と。
できるだけ効率化をして、早く安くした方が多くの人に買ってもらえるはず。
こう考えるのは、開業時の私だけではないでしょう。
でも、ウイスキーと同じように、私たちが追求するべきなのは、自分だけが持っている「商品を作るまでの過程」というストーリーをお客さんに知ってもらう努力をするのと同時に、自分だけが持つ商品の価値をより高める努力をすることなのではないでしょうか。
仮にウイスキーの味だけは真似することができたとしても、「長い年月をかけて熟成させた」という価値はすぐには真似しようがありません。真似しようと思っても真似できないから価値があるのであり、オーナー自身の経験や試行錯誤に基づいた商品を作るまでの過程もまた、誰にも真似できない価値である以上、私たち小規模経営が目指すべき方向は、間違っても効率化による「早く安く大量に」ではないとウイスキーが教えてくれている気がするのです。
著者/辻本 誠(つじもと まこと)
<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/