この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
最近、「雇わない経営」という、組織改革のお手伝いをやってまして。
いいですね。
今、この手の相談がすごく多いんですよ。「雇うことに、すごく疲れてる」経営者が増えてます。
同じ経営者として、その気持ちはよく分かりますね。
採用してもすぐ辞めちゃうし、飲みに連れってたら嫌がるし。
休みも取らせないといけないし、すぐにパワハラだとか言われるし。
とは言え、社員がいないと会社は回らないじゃないですか?
ですね。頭の痛いところです。
もうやめたいって経営者さん、近くにいませんか?
たくさんいます。会社をたたむか、M&Aするか、悩まれてますね。
ですよね。でも仕事自体が嫌なわけじゃないんですよ。雇用することに疲れてるだけ。
分かります。ここ数年は、ホントそんな感じですね。
だから新しい経営のカタチとして、「雇用しない経営」っていうのを本気で考えてるんですよ。
社長がひとりでやるってことですか?
いや、それでは成り立たないので、「新しい契約形態の組織」を作り出す。
なるほど。興味深いですね。
そういう会社が増えていく実感って、ないですか?
そういう発想の経営者は、まだまだ少ないですね。けど、これだけ厳しい労働法改正を見てると、そうならざるを得ないと思います。
大企業なんて、もう既に、45歳以上の社員を手放し始めてますよ。
手放しているというか、手を切っているというか。
まあ、そっちですよね。東証一部上場企業でも「45歳過ぎたら辞めてくれ」って動きが、当たり前になってきました。
一気に動き出しましたね。
はい。ただ、優秀な人が一緒に辞めちゃうのは、困るみたいです。
退職金を積めば、優秀な人から辞めていきますからね。
そうなんですよ。優秀な人って、どこに行っても食えるので。
そういう人が大量に辞めたら、さすがに困りますよね。
はい。だから「辞めた後も繋がっておこう」という動きが出て来てます。
どうやって繋がるんですか?
独立する人に出資したり、外注として仕事を依頼したり。
なるほど。ちょっと前には、考えられなかったパターンですね。
そうなんですよ。社員として「ずっと囲い込むこと」の限界を、大企業も感じ始めてるんでしょう。
そういう意味では、中小企業はちょっと出遅れてますね。
本当は中小企業ほど、そうならないといけないんですけど。
まだまだ、囲い込むのが好きな人が多いですね。
でも、囲い込めば囲い込むほど、辞めちゃうんですよ。優秀な人って。
確かに、そういう傾向はあります。
「好きな場所で、好きな時間に」働けるようにしてあげたほうが、優秀な人は集まって来ます。
ガチガチに管理しないほうがいいってことですか?
「決められた場所で、決められたことを、決められた通りにやる」という方向にもっていくほど、人材の質が下がる。
優秀な人は選択肢が多いので、ちょっと嫌なことがあったら辞めますもんね。
はい。優秀な人ほど自分で時間をコントロールしたがりますね。で、自身のスキルアップにしっかりと時間を使う。
結果的に時給が上がって、より短い時間で稼げるようになる。
その通りです。できる人材ほど労働時間が短い。だから優秀な人材を巻き込みたいのであれば、拘束時間を減らすべきです。
スポーツと似てますね。めちゃくちゃサッカーがうまい人に「試合の時だけ来てもらう」みたいなイメージですよね。
そうです。できる人は自分で勝手に練習しますので。
雇ってると、すべてを管理しなくちゃいけないですもんね。ロッカールームにいる時間、着替える時間、ランニングする時間。
練習時間にまで金払ってるわけですから。練習プログラムまでこっちが用意して。なのに、練習しないみたいな。
で、やる気ないやつを詰めて。点入れなくても、お金払わなきゃいけないし。
中小企業の場合は、すぐ辞めちゃうし、育てる仕組みもない。だから雇い方を根本的に変えるのが、最も効果的な方法なんですよ。
できない社員の人件費を、できる社員にカバーさせる仕組みって、もう限界ですよね。
はい。優秀な人がどんどん疲弊していきますから。
そのひとつの答えが、雇わない経営だと?
個人的には「雇わない経営」を、どんどん増やしたいです。中小企業の方が、切り替えやすいと思いますけど。
業種的に難しいところもあるでしょうけどね。
たとえば?
メーカーさんの工場とか。どうしても人を雇う必要がありますよね。
スキルの高い職人さんは、フリーランス化できると思いますよ。
ラインの組み立て作業とかはどうですか?
そういう仕事は自動化して、無人化していくと思います。
中小企業も無人化しますか?
するしかないですよね。採用コストと時給が上がり続けるし、残業はさせられないし、休ませなくちゃいけないし。
確かにそうですね。これまでずっと耐え凌いできたのが、もう限界にきてる。
耐え凌ぎ過ぎたんですよ。本当は、もっと早く手を打つべきだった。
今の日本って、非常に中途半端な状態ですよね。日本だけ賃金がぜんぜん上がってない。
逆に下がってますよね。
下がってますね。ただ、これからは単価が上がって「労働法もきっちり守れ」みたいな話になれば、変わっていかざるを得ない。
なんで、こんなに我慢しちゃったんでしょうね。みんな工夫して、安い給料でも生活しちゃうじゃないですか、日本って。
しちゃいますね。こづかい少なくても、頑張っちゃう。
条件聞いたらびっくりするような会社で、辞めずに働いてる人っているじゃないですか?
います、います。
あれ、どうしてなんでしょう。国民性ですかね?
国民性もありますけど、家買っちゃったとか、子どもを塾に入れたいとか。
でも、転職したら給料増えるかもしれないですよ。
今までは、そういう情報がなかったからだと思います。でもIndeedとかが出てきて、簡単に比較できるようになりました。
ですよね。もう隠し通せない。「やってられるか!」みたいな離職が、全国的に起こるんじゃないですか。
そう思いますね。とくに若い人は車も持っていないし、家も買わないので。
縛り付けておくものがないと?
はい。だから簡単に辞めちゃいます。
やっぱり目指すべきは「雇わない経営」じゃないですか?
そこまで吹っ切れるかどうかは分かりませんけど。経営者が試される時は近づいてます。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。