第16回「経営者がやるべき、本当の仕事」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第16回「経営者がやるべき、本当の仕事」

安田

改めるべきは、やっぱり「金出したほうが偉い文化」ですよね。

久野

「俺が雇ってやってる」「俺が買ってやってる」みたいな。

安田

「おもてなし」を勘違いしちゃってますよね。

久野

完全に、金に洗脳されてる気がします。

安田

洗脳したい経営者もいますからね。

久野

本当そう思いますね。給料日にやたら現金で払いたがる社長とか。

安田

封筒に入れてね。

久野

飲み屋さんとかでも、お金をちらつかせる社長っているじゃないですか。

安田

いますよね。「俺は持ってるぞ」みたいな。

久野

お金払ったら言うこと聞くとか、「大抵のことは許される」みたいに思ってる社長は多いですよ。

安田

海外の方が「金次第」的なイメージがあるんですけど。実際はどうですか?

久野

むしろ海外の方がニュートラルですね。日本は「お金で縛ってない」と言いながら、かなりお金の力に縛られてます。

安田

それって、金を持ってる側の責任なんでしょうか。

久野

両方じゃないですか。縛られる側にも問題ありますよ。

安田

この前、新橋の焼き鳥屋さんで「まさに、そういうシーン」を見かけまして。

久野

そういうシーン?

安田

安くて美味しい店なんですけど、そこにヨレヨレのおじさんが来たんですよ。

久野

何か起こりそうな予感ですね(笑)

安田

で、5本ぐらい焼き鳥食べて、ビール飲んで、お会計のときに、3000円弱だったんですけど、ゴネだしたんです。

久野

ゴネだしましたか。

安田

はい。「なんでこんなに高いんだ」って。

久野

どうなったんですか?

安田

これがいくらで、これがいくらでって、店員さんが説明するんですけど納得しない。

久野

なぜ納得しないんですかね?

安田

もっと安いと思ってたんでしょうね。

久野

なるほど。

安田

その人、1万円札を持ってたんですけど、なかなか離そうとしないんですよ。

久野

払いたくなかったんでしょうね。

安田

でもそうやって「小さなお金に執着する人」ほど、逆にお金に束縛されて、お金がなくなっていく。

久野

お金の怖さですね。

安田

その焼き鳥屋さん、すごくこだわりのある店なんですよ。一本一本丁寧に仕込んで、備長炭で焼くんですけど。

久野

安田さんが好きそうな店ですね。

安田

油だって、市販の油じゃないんですよ。鶏の脂身を炭火であぶって出てきた鶏油を1本1本塗って焼いてるわけです。

久野

すごいこだわりですね。

安田

そういうこだわりとか、仕込みの苦労とか見てると、とても安く感じるんですけど。

久野

他と比べて、砂肝1本いくらっていう話じゃないと。

安田

そうなんですよ。しかも安いんですよ。それに文句つけてどうするんだと。

久野

価値観の問題ですよね。

安田

まさに。でもいいお客さんって、ちゃんと価値を分かってくれる。

久野

分かります。気前よく払ってくれた上に、お礼まで言われたり。

安田

ポンと気前よく顧問料払ってくれる人のほうが要望低くて、値切ってくる人のほうが、これもやって、あれもやってとか。

久野

それは、本当にそうだと思います。

安田

レベルの高い仕事をしても、時間でしか評価しないとか。

久野

ありますね。作業時間でしか評価しないとか。質を評価してくれる人は、ポンと払ってくれますね。

安田

でも結局、そういう人の方が得をするじゃないですか。

久野

間違いないですね。分かってくれる人により貢献しようとしますから。

安田

量でしか人を評価できない人は、結局いいサービスを受けられない。

久野

経営者の優秀さって、そこだと思うんですよね。

安田

社員に無駄なことやらせるのが「とにかく嫌い」っていう社長さん、いますよね。細かいところも全部きっちり管理して。

久野

いますね。

安田

そういう会社に限って労働時間が長かったり、休みの日でも「自分を高めるために勉強しろ」みたいなこと言ったり。

久野

今やるところだったのに、言われたらやる気そがれることってありますよね。

安田

給料安くて、社長はいちいち細かくて、全くやる気が出ないという。

久野

目先のお金に執着すると、細かく管理したくなるんでしょうね。

安田

変な管理をしない方が採用力も上がって、社員も辞めず、売上も利益も伸びて、いい循環をもたらすんですけど。

久野

中身がない仕事はダメだと思うんですけど。さっきの焼き鳥屋さんみたいな価値を、きちんと見抜く力が経営者には必要ですね。

安田

コスト感とか、労働観って、劇的に変わりましたよね。

久野

変わりましたね。働いて当たり前とか、自分の仕事終わってないんだから「残業して当たり前だろ」みたいのは、もう通用しません。

安田

頭の古い経営者が多いですよ。「俺の時代はこうだった」とか。「有給なんて昔はなかったんだ」とか。あったわけでしょ、昔から。

久野

ありましたね。

安田

ただ「なぁなぁ」でやってきただけで。

久野

根性論ですね。「水飲むな」みたいな。

安田

労働現場に関しては、いまだに多いですよ。うさぎ跳びさせてるみたいなのが。

久野

飛び込み営業とか、いまだにさせ続けてる会社がありますもんね。

安田

ありますよね。仕事中にいきなり入って来て、いきなり説明しだして。ものすごい迷惑。

久野

やらされてる社員も、かわいそうですよね。

安田

犠牲者ですよ。社員は。何の工夫もせずに、社員だけに苦労させてる。

久野

犯人は、絶対に社長だと思いますね。

安田

「生産性が低い」「誰もやりたがらない」みたいな会社は、なくなった方がいいのかもしれませんね。

久野

「金払ってんだから」って、手足のように社員や取引先を使う経営者は、この先厳しいと思います。

安田

本来、社長の仕事って「どうやったらもっと高く売れるのか」「どうやったら社員の給料や休みを増やせるのか」を考えること。

久野

本当そうですね。

安田

でも、それが仕事だと思ってる社長は、少ないですよ。

久野

はい。だから切るべき仕事を切ることができない。

安田

安い仕事を取ってきて、嫌なことを社員に我慢させて、報酬も社員に我慢させるっていう。奴隷じゃないんですから。

久野

そういう文化って、日本特有なのかも。

安田

でも、今の若い子には通用しないですよ。

久野

我慢してくれないですもんね。嫌だったら辞めて、すぐ別の会社に行けるんで。

安田

辞める人は、これからどんどん増えて行きますよ。

久野

まだまだ「お金を出せばなんとかなる」って思ってる人、多いですけど。

安田

いや、もう無理ですね。そもそもお金が最優先事項じゃないし。

久野

ですよね。

安田

そこに気付くかどうか。

久野

気付けない人は、終わっていくでしょうね。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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