第39回「変われないのは誰?」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第39回「変われないのは誰?」

安田

「うちは下請けだからどうしようもない」って経営者がいますよね。

久野

はい。諦めちゃってますね。

安田

それってものすごく危険なことがあっても避難しない人と同じですよね。

久野

すごく飛躍しましたけど(笑)。まあ見方を変えればそうですね。

安田

危険が近づいてて、大変なことになるかもしれないのに「いや俺は動かん」みたいな。

久野

まあでも、そんな感じですよね。

安田

危険が迫ってるのに「俺の家はここだ」みたいな。そんなこと言われてもって感じ。

久野

「一緒に何か方法を探しましょう」って話をするんですけど。

安田

聞く耳持たずですか?

久野

「それは元請けさんが」とか「もうちょっと代金をいただかないと」とか「うちはできないんです。下請けなので」とか。この堂々巡り。

安田

「この家なくしたらウチはローン払えないんだ」「だから出ていくわけにいかないんだ」みたいな。

久野

もう危険はそこまで迫っててるんですけど。

安田

ローンをなしにしてくれるんだったら逃げる、みたいな感じですかね。

久野

そうですね。「国や元請けがなんとかしろ」って感じです。

安田

とは言っても、そこまで危機が来ちゃってるわけなんで。

久野

「なんでこんなことになったんだ」「誰がこんなことしたんだ」みたいな話に大抵はなりますね。

安田

なるほど。俺が悪いんじゃないんだと。

久野

労働法に関して言うと、いちばんタチが悪いのは「知っててやらない人」。

安田

知っててやらない?

久野

たとえば社員を弟子扱いして「今は修行中だから小遣いあげてるだけ」みたいな。

安田

そういう場合はどうなるんですか。たとえば「境目研究家の弟子にしてください」って人に「雇わないよ」「給料はいりません、弟子にしてください」みたいなやりとりがあったとしたら。

久野

雇用でしょうね(笑)

安田

それでも雇用ですか!

久野

当事者間内なら有効かもしれないけど。揉めたら雇用になっちゃうと思います。

安田

ってことは、弟子も取っちゃいかんってことですね。

久野

まぁそうでしょうね。弟子も取るんだったら適切に取っていただくと。

安田

労働法に則って?

久野

そういう時代なんですよ。

安田

ぜんぜん仕事ができない吉本の芸人にも「基本給払え」っていう時代ですからね。

久野

われわれの業界も実際そういうところがあって。資格を取って独立する前の勉強だからって、すごい安く働かせてる。

安田

どちらにとっても、そのほうが都合のいい場合もあるじゃないですか。

久野

ありますね。でも法律だからそこは従うしかない。

安田

お互いに好き合っていても未成年と性行為したら犯罪だと。

久野

また飛躍しましたけど(笑)まあそういうことです。

安田

じゃあ「お互いに納得してる」とか言ったところで、法律なんだからしょうがない。

久野

そのリスクを理解してない人が意外と多いんですよ。特に「これだったら安くすむ」と考えてる経営者はいよいよ危ない。

安田

そういう人って多いんですか。

久野

多いというか「これじゃないと成り立たない」って当たり前のように現場で言ってますね。

安田

つまり「もう成り立たってない」ってことですよね。

久野

はい。そのまま行けば会社が潰れてしまいます。

安田

久野さんはちゃんとそれを言うんですか?つぶれますよって。

久野

それは言いますね。もうちょっと遠回しに言いますけど。

安田

遠回し?

久野

「正直厳しいですね。このスタイルだと」みたいな。

安田

それでも怒られるんですか。

久野

生意気だって言われることは、よくありますね。

安田

生意気っていうのは若造のくせにって感じですか。

久野

そうですね。「長いこと経営やってるわけでもないのに」みたいな。

安田

そんなこと関係ないじゃないですか。若かろうが老人だろうが。事実は事実なので。

久野

そういう風には割り切れないんでしょうね。

安田

「危ないですよ」って教えに来てくれたのに「いやいや、お前まだ小学生だろ」みたいな。そんなこと言ってる場合ですか。

久野

もう目の前に来てますからね、実際に。

安田

グダグダ言ってる間に終わっちゃいますよ。

久野

ですね。

安田

最近タクシーの事故が増えてまして。ずっと無事故できた高齢のドライバーさんが「俺は大丈夫だ」って思い込んでる。

久野

経営者も同じですね。年配の経営者で、特に社歴とか経営者歴が長い人ほど「うちの会社に限って」みたいな感じがすごく強い。

安田

実績がある人ほどそうなっちゃいますよね。

久野

はい。ビジネスが時代に置いてかれてるんだけど、手を打ってない感じがします。

安田

なぜか儲かる努力をしないですよね。安くするとか人件費を抑えるとかばっかり。

久野

頭を下げたくない人が多いですから。

安田

頭下げたくない?それは社員にってことですか。

久野

値上げ交渉ですね。強烈なストレスなんだと思いますよ。

安田

でも値上げって発注先に「お願いだから値上げしてください」と頭下げても絶対してくれないじゃないですか。

久野

してくれないですね。

安田

逆に向こうから頭下げさせる努力というか「頼むから仕事引き受けてください」って言われる努力が必要。

久野

ですね。そしたら「やってもいいけど値段これだよ」って言える。

安田

本当はそれが経営者の仕事じゃないですか。

久野

その通りですね。値段を上げる努力をやらなきゃいけない。

安田

なぜやらないんでしょう。

久野

失われた20年とか言われて、上げられないと思い込んでるんですよ。

安田

じゃあ20年間も何やってたんですか。

久野

来た仕事に対して「いかに安く早くさばくか」ってことしかやってこなかった。

安田

なるほど。

久野

あまりに長い間それをやりすぎちゃったんでしょうね。

安田

値上げするという発想そのものがない?

久野

まったくないですね。

安田

じゃあもう経営者自体が入れ替わるしかないですね。

久野

まさに政府がやろうとしてることです。

安田

ということは政府の考えはある意味正しいと。

久野

ここまで来ちゃったら、もうそれしかない。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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