第89回「辛い思いをするのは誰?」

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第89回「辛い思いをするのは誰?」


安田

外国人労働の話を聞いてもいいですか?

久野

いいですよ。

安田

最低賃金は外国から来てる人も同じですよね。

久野

一律適用ですね。

安田

じゃあ外国人さんからしたら東京で働くほうがいいわけですね。地方で働くより。

久野

時給だけ考えればそうですね。

安田

実際にはどうなんですか。地方で働く人って多いんですか?

久野

多いですし、どんどん増えてます。

安田

たとえばコンビニは、コロナの前まで日本人が採れなかったじゃないですか。

久野

そうですね。

安田

でもコロナで日本人も採れるようになって。わざわざ外国人を採らなくてもいいんじゃないかと思うんですけど。

久野

地方にいくと、外国人はすごい人気ですよ。

安田

それは苦肉の策ではなく。

久野

だって実習生で来れば3年間は辞めないじゃないですか。日本人を入れてもすぐ辞めちゃうんで。だから「外国人をやめて日本人にしよう」って発想はないです。

安田

実習生って、安い給料で働かせて実は労働者みたいな扱いですよね。

久野
日本の外国人制度は闇ですね。技能実習という名の労働になってます。
安田

日本人相手だったら許されない気がするんですけど。

久野

日本って移民政策をとってないし、外国人が働くことを想定してないんですよ。すごい反対があるので。

安田

なるほど。

久野

だから実習生とか研修生って名前にして、ビザを発行させてる。

安田

ひどい話じゃないですか。

久野

実習生って本来「本国に技術やノウハウを持ち帰ること」が目的なんですよ。本国を発展させるという理念の下でスタートしてるので。

安田

でも実際は「日本人がやりたくないこと」をやらせてるだけ。もしかして給料も払ってないとか。

久野

いやいや(笑)。絶対に給与は払わなきゃいけないです。あと実習生は入れていい名目が決まってるんですよ。

安田

入れていい名目?

久野

たとえば「タイルの製造」という実習生は来ちゃ駄目なんですよ。そういう枠がないから。

安田

ダメなんですか。

久野

カテゴリーが決まってまして。必ずどれかのカテゴリーに合致しないといけない。「その技術を生かすことによって本国が発展する」ってことが目的なので。

安田

本国発展に寄与しない仕事はダメだと。

久野

はい。でも名目だけ適当に入れて、ぜんぜん違うことをさせてるケースが多い。

安田

それは違法ってことですか。

久野

違法な現場がめちゃくちゃ多いです。

安田

でも彼らがいないと現場は回らないんですよね?

久野

そうなんです。回らない。だから本音と建前を使い分けてる。

安田

分かっていながら目をつぶってるんですか?

久野

技能実習機構もなんとなく気付きながら、目をつぶってる部分が多いと思います。

安田

研修生を受け入れている責任者は誰なんですか?

久野

実習生に関しては組合が受けてます。

安田

じゃあ組合がルールを守ってないってことですか?

久野

組合は守ってると思います。ただ企業に派遣したときに、どういう業務に就かせてるかは疑問です。たとえば「タイル貼り」という業務はOKなんですよ。

安田

タイルを貼るのはOKだけど、つくるのは駄目だと。

久野

そう。

安田

工場で働かせちゃだめってことですね。

久野

そう。これ言うと怒られちゃいますけど。

安田

久野さんはちゃんと伝えてるんですか。

久野
もちろんです。ダメだということはちゃんと伝えてます。
安田

だけどその人たちがいないと回らない。

久野

回らないですね。日本人はやりたがらないですもん。暑いとか汚いとか言って。

安田

今後はどうなっていくんですか、そういう現場って。法律を変えてでも、どんどん海外の人を入れざるを得ない気もするんですけど。

久野

なので、新しい外国人労働の枠をつくってます。

安田

それはうまく行きそうなんですか?

久野

いえ。反対する人がとても多いので。

安田

なぜ反対するんですか?

久野

そんなことないはずなんですけど、単純労働の外国人を入れると「日本人の雇用を奪う」ってことで。政治的圧力がめちゃめちゃ強いんですよ。

安田

誰が圧力をかけてるんですか?

久野

業界団体ですね。左の人たちだと思うんですけど。

安田

労働者組合みたいなとこですか?

久野

そうですね。

安田

でも日本人はそういう仕事があってもやらないわけじゃないですか。

久野

そうなんです。でも反対の声は大きいです。あとは「治安が悪くなる」とか。

安田

勝手なもんですね。自分たちがやりたくないことを手伝ってもらってるのに。

久野

「賃金が安くなる」という恐れも感じてますね。

安田

外国人が喜んで安い給料でやっちゃうと、日本人の給料も下がっていくと。

久野

そういう恐れですね。実際は違うと思いますけど。

安田

実際はどうなんですか。

久野

コロナで確かに失業率も上がってますけど、日本人は仕事を選んでますね。来ない仕事は来ないですよ、やっぱり。

安田

そういう仕事に関しては、無人化するか外国人を入れるしかない?

久野

そうなんですけど。このままだと外国人が来なくなっちゃうんじゃないかって、心配してるとこです。

安田

安くてやりたくない仕事ばかりだから?

久野

そうです。外国人もそれに気づき始めてます。だったら韓国に行こうかとか。日本ってまだ賃金が国際水準で見たら高いんですけど、どこかで必ず追いつかれますから。

安田

ちなみに同一労働同一賃金っていうのは、外国人には当てはまらないんですか。

久野

当てはまるはずなんですけど誰も議論しないですね。

安田

もはや自分で自分の首を絞めてるみたいなもんですね。いずれ誰も来てくれなくなって。

久野

最後はそうなると思います。コモディティ化した製造業は、もう国内では成り立たないんですよ。それをむりやり外国人にやらせてるだけで。

安田

じゃあ普通の下請け中小メーカーは、国内で仕事を続けるのムリってことですか。

久野

そうなっちゃうでしょうね。高付加価値の仕事以外は、無人化するより安い仕事しか残らなくなるので。真ん中の仕事はすっからかんになってくる。

安田

いざ日本人がやろうと思ったときは、更に安い仕事しか残ってないよと。

久野

はい。今は外国人が苦しんでますけど、最後は自分たちがつらい目に会う。



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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