第152回 身内にいちばん甘いのは誰?

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第152回「身内にいちばん甘いのは誰?」


安田

従業員5人以上の個人事業主の士業?ややこしいですね。

久野

そもそも士業事務所って個人事業主が多いんです。

安田

それはなぜ?

久野

法人化すると社会保険に入らなきゃいけないじゃないですか。

安田

え!そんな理由ですか。

久野

個人事業主だと従業員4人までは社会保険に入らなくてもいい。

安田

4人までなんですね。

久野

かつては15人いても、20人いても、従業員に厚生年金と健康保険を掛けなくてよかったんです。すごい制度だったと思う。

安田

それが従業員5人以上は社会保険に強制加入になったと。いや、そもそも個人事業主が社員を雇うことなんてできるんですか。

久野

個人事務所で従業員を雇うことはできますよ。

安田

それは士業さん限定ですか。個人のフリーランスでも雇うことってできるんですか。

久野

できます。

安田

それは外注じゃないんですか。雇ってることになるんですか。

久野

雇ってることになりますね。

安田

でも雇用契約って会社と結ぶわけでしょ。個人と結ぶわけじゃなく。

久野

確かに。でも、個人事業ですもん。労働基準法が適用されるんですよ。

安田

えー!そうなんですか。ということは私個人がフリーの人と雇用契約を結ぶことも可能だと。

久野

はい。

安田

その場合は私がその人の分も社会保険料を払うんですか。

久野

そうです。事業主は入れないですけど従業員は入る。すごく複雑なんですけど、業種によって、入らなきゃいけない業種と、入らなくていい業種があるんです。

安田

ややこしい。たとえば一人親方っているじゃないですか。

久野

はい。

安田

弟子が5人ぐらいいて1現場いくらみたいな雇い方をしてる。あれはどうなんですか。社会保険は加入しなくていいんですか。

久野

そもそも弟子ってものがないので。

安田

外注か雇用のどちらかだと。

久野

そうです。弟子なんていうのはひと昔前の発想です。

安田

じゃあ外注以外は雇用とみなされる?社会保険にも入らなきゃいけないと。

久野

そうです。

安田

だけど士業事務所は入らなくてもよかった?

久野

個人事業で従業員が5人未満だったら、社会保険に入れなくてよかった。

安田

5人未満なら入れなくてもよかったんですね。

久野

一定業種は。

安田

たとえばどんな業種ですか。弁護士さんとか?

久野

はい。士業は適用外だったんです。法定16業種っていうのがありまして、そこはもともと強制です。たとえば電気工事とか、建設業とか、貨物とか、金融保険とか。

安田

今後はそれが士業にも適用されると。

久野

そうです。

安田

業種によって違うって、すごい差別ですよね。

久野

5、6人も雇ってたら、士業以外の人はだいたい法人化していくんです。だからそんなに問題になってなかった。

安田

そもそも雇ってるかどうかって、雇用契約を結んでるかどうかですよね。

久野

そうです。雇用契約を結んでるかどうか。

安田

じゃあ雇用契約を結んでなければ「外注です」で済んじゃいませんか?

久野

事務員なんかは明かに雇用じゃないですか。

安田

家で事務仕事をやってる人もいますけど。

久野

家でやってようが雇用契約です。

安田

事務をやらせたら雇用になるってことですか。

久野

タイムリーに仕事お願いしてたら雇用ですね。

安田

私は「動画の編集」という仕事を、毎週同じ時間にお願いしてるんですけど。その場に参加してもらって編集してもらい、アップしてもらう。これって雇用ですか。

久野

それは外注ですね。

安田

何が違うかよく分からないです。それも事務作業みたいなもんじゃないですか。

久野

たとえば1日中事務所にいる仕事とか。

安田

つまり朝何時から夕方何時までって時間拘束するのは雇用だってことですよね。

久野

その状態で仕事内容を都度指定してくと雇用になります。

安田

そりゃそうでしょ。それが雇用じゃなかったら何が雇用なのか。

久野

士業って個人事務所でもばかでかいところがありまして。50人とか。全員朝9時に来て、6時に帰って、仕事は社長の指示の下やってる。極めて雇用に近い。

安田

それは完全に雇用でしょう(笑)

久野

ところが今まで社会保険に入らなくてよかったんです。

安田

なんと!入らなくてよかったんですか。

久野

はい。

安田

その人数で法人化してないって、なかなかあり得ないですよね。

久野

弁護士さんの個人事務所も多いです。

安田

なるほど。そういう特殊な状態でも、社会保険に入らなくちゃいけなくなったと。

久野

そうです。だって社労士事務所なのに、職員が社会保険に入ってないって違和感ないですか。

安田

そんなわけがないと思ってました。

久野

そうですよね。

安田

人を雇用してる士業事務所は法人化してると思ってました。

久野

社会保険労務士法人と書いてないと、法人ではないんです。

安田

なるほど。じゃあ個人で雇って、社労士なのに雇った人を社会保険に入れてなかったと。

久野

それはちょっと言わないでほしい(笑)

安田

もう言っちゃいました(笑)

久野

今後は5人以上いればちゃんと加入することになります。

安田

でもおかしな話ですよね。普通の法人だったら1人でも雇用したら社会保険に強制加入なのに。なぜ5人以上なのか。

久野

安田さんの疑問ポイントは鋭いですね(笑)何の違和感もなく5人以上となってます。

安田

いきなりは難しいってことでしょうか。

久野

そう思います。

安田

それで成り立ってる美容室も多いんでしょうね。

久野

いえ、美容室はもともと社会保険加入です。

安田

え!じゃあ自分たちにだけ甘かったわけですか。士業の先生方は。

久野

ここはちょっとカットでお願いします(笑)

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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