第170回 最強の組み合わせ

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第170回「最強の組み合わせ」


安田

資格ビジネスって食えるんですか?

久野

いきなりですね(笑)

安田

じつはキャリアコンサルタントさんに相談されまして。国家資格にも2種類あるそうですね。業務独占資格と名称独占資格。

久野

はい。そうです。

安田

弁護士や税理士のように「独占代理業務があり資格がないと仕事ができない資格」と、キャリアコンサルタントのように「名称が与えられるが独占代理業務がなく自分で仕事を作る資格」と。

久野

中小企業診断士もそうですね。名称独占資格。

安田

つまり資格を取ったからといって、仕事が保障されるわけじゃない資格。

久野

そうなりますね。

安田

すごく意味不明なんですけど。なぜ国がそんな資格を発行しているのか。ちなみに社労士さんは業務独占資格ですよね。

久野

はい。社労士にしかできない仕事がありますので。

安田

じゃあ安泰ですか。

久野

安泰ではありません。社労士も資格だけでは食べていけなくなると言われてます。

安田

それは人数が多すぎるからですか。

久野

そもそも、なぜ資格があるかというと、「一定の品質を保つため」だと思っていて。たとえば弁護士という資格は絶対なくならない。

安田

そりゃなくならないでしょ。裁判ができなくなるし。

久野

いや、「裁判なんか自分でもできる」と思っている人もいます。

安田

できるんですか?自分で。

久野

確かにできるんですけど。それでは裁判の質が保てないわけですよ。

安田

裁判の質は裁判官が保つんじゃないですか。

久野

弁護士に相談した人なら分かるんですけど。弁護士に理不尽な相談をしても、ほぼ受け入れてくれてないんです。

安田

無茶な案件は引き受けてくれないってことですか。

久野

そう。なぜ裁判が成り立つかっていうと、弁護士も検事も裁判長も、全員がルールを明確に分かってるから。ちゃんと土俵の上で戦いができてるんです。ボクシングで蹴る人がいない感じです。素人だと蹴る人も出るでしょ(笑)

安田

へえ〜。

久野

弁護士資格がなくなることが社会にとってプラスかマイナスか。ここが資格の意味ですね。私は確実にマイナスだと思ってます。

安田

社労士さんも同じですか。

久野

社労士の資格で言うと、社会保険の仕組みがめちゃくちゃ分かりづらい。だから社労士がいて、これを整理してくれる。

安田

確かに分かりづらいです。

久野

労働法に関しても分かりにくいから、これを社労士が整理するところにニーズがある。

安田

社労士さんは「社会保険の手続きをする人」というイメージですけど。

久野

そういう仕事は最終的には失うだろうと思います。マイナンバーを使ってシンプルになれば社労士が介在する必要がなくなる。

安田

国から与えられた仕事なんて続かないってことですか。

久野

「ある一定の品質を保つ」ということが実現できなければ、資格というのは意味がないということです。

安田

たとえば医療関係はわかりやすいですよね。素人が勝手に他人の歯を引っこ抜いたりしたら困る。

久野

分かりやすいです。

安田

ある程度の技術が必要なので、「これだけの報酬をお支払いします」と決められてる。

久野

それが健康保険制度ですね。

安田

だけど国の都合で報酬額を下げられることもある。

久野

あります。とくに今は財源が厳しいので。

安田

すると高い学費を払って医学部を出て、資格をとった人たちが「話が違うじゃないか」となる。

久野

実際にそうなってます。

安田

ただ医者や歯医者の場合は自由診療というのがあって。国からお金もらわなくても患者が納得すれば商売ができちゃうわけです。

久野

そういう意味では弁護士も完全自由診療ビジネスです。

安田

そうなんですか。

久野

社労士もかなり自由じゃないですかね。一部、労働局の仕事とかもありますけど。

安田

国から報酬を受け取るわけじゃないですもんね。

久野

そこは不安定でもあり、逆に安定するところでもあります。

安田

医者や歯医者は「100%保険診療しかやってない」という人もいます。一切マーケティングも営業活動もせず、国が決めた仕事だけをやってる人。

久野

いらっしゃいますね。

安田

社労士や弁護士はどうなんですか。営業やマーケティング活動をしないと食えないんですか。「弁護士になったら食える」みたいなイメージもありますけど。

久野

国の仕事の手伝いは弁護士でも社労士でもあります。ただ、それだけじゃ生活はできないです。

安田

私は資格もなく100%自由業じゃないですか。

久野

境目研究家ですもんね(笑)

安田

はい。勝手に商品をつくって売ってるわけです。私のイメージでは国家資格を持ってる人はものすごく有利に感じるんですよ。

久野

それはどういう意味で。

安田

資格があるだけでマーケットに信頼されて。誰でも名乗れるコンサルタントなんかよりも遥かに営業しやすい。

久野

そうでしょうね。私もそう思います。

安田

なぜそれを利用してもっとマーケットにアピールしないのか。すごく不思議なんですけど。

久野

サラリーマン家庭が多いからじゃないですか。マーケティングなんて勉強してないので。そもそもマーケットに打って出るのが嫌だから資格を取るって人も多いし。

安田

社労士さんも「なっただけで食える」という時代があったんですか。

久野

初期はそういう時代だったと思います。

安田

いい時代だったんですね。

久野

士業を否定するわけじゃないんですけど。やっぱり勘違いしてる人が多くて。開業したのになぜかまた実務の勉強する人がいるんです。

安田

実務の勉強?

久野

法律の勉強とか、手続きのやり方の勉強をするんです。やるべきは仕事の取り方だと思うんですけど。それやらずに「仕事がない」と言ってる人が多い。

安田

久野さんは資格なんてなくても余裕でやっていけそうですよね。

久野

そんなことないですよ。やっぱり資格があって良かったと実感します。

安田

そうですか。

久野

ゼロから起業する人より楽ちんだと思います。資格ってひとつのビジネスモデルなので。

安田

でも食えないキャリアコンサルタントは多いみたいですよ。

久野

真似しちゃえばいいんですよ。キャリアコンサルタントで食ってる先人がいるはずなので。

安田

そんなので食えますか。

久野

社労士だったら、顧問、手続き、給与計算みたいのがありまして。そういう商品パッケージをマーケットに営業するだけ。商品開発も必要ない。

安田

ちゃんと営業活動さえすれば食えるってことですか。

久野

食えない人は営業活動をやってないか、営業活動のやり方がすごく間違ってるか。

安田

営業をやりたくない人が資格を取るイメージですけど。営業力に自信があれば資格なんて取らなくてもいいし。

久野

その通りなんですよ。だから営業力のある人が資格を取ると最強なんです。営業力やマーケティング力と国家資格を組み合わせる。これは最強の組み合わせだと思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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