第176回 初任給25万円時代は来るのか?

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第176回「初任給25万円時代は来るのか?」


安田

物価上昇と円安はもう避けられない感じですね。

久野

はい。

安田

「給料を上げるしかない」と岸田総理がおっしゃってます。そのために税金で経済支援を行うと。これって正しい戦略なんですか。

久野

「給料を上げるしかない」っていうのは、正しいと思います。

安田

戦略についてはどうですか。

久野

いよいよやばいですよね。日銀がそもそも円安をやめる気がないし。

安田

円安で潤う企業もありますけど。

久野

もう時代が変わってて。昔のようには輸出のメリットを享受できない中で、どう考えてもほとんどの企業が苦しくなっていきます。

安田

国民の生活もしんどくなりますよね。

久野

国民も厳しいし、企業も厳しいです。家を建てるにも木が高いとか、石油も高くなるし。小麦も高くなれば、全部の物価が上がるじゃないですか。

安田

そうですね。

久野

3〜4カ月後には悲惨なことになってますよ。

安田

輸入コストがどんどん上がって、物価もどんどん上がっていく感じ。

久野

それで、どうやって給与を上げるのかって聞いてみたいです。

安田

そのための経済支援じゃないんですか。6.2兆円。また橋とか道路を造るんですかね。

久野

そうでしょうね。

安田

そもそも国の経済支援って効果あるんですか。

久野

もうパフォーマンスですよ。現実的に考えるなら金利を上げるしかないと思う。

安田

なぜそうしないんですか。

久野

家も売れなくなるし、借金してる会社も苦しくなるし。つぶれる会社もどんどん出てくるから、やれないんでしょう。

安田

だけど金利を上げるしかないと。

久野

金利を上げないと円安が止められないと思います。

安田

利上げか円安か。どっちかだと。

久野

そう思います。だけど金利を上げたら中小企業が潰れるじゃないですか。

安田

たくさん潰れるでしょうね。

久野

とはいえ円安を放置したら物価が上がる。だけど給与は上げられない。すると人がいなくなって会社が潰れていく。

安田

じゃあ結果は同じじゃないですか。

久野

どのみちゴールは一緒です。ただ金利を上げる方が劇薬なんですよ。潰れるスピードが速いから。

安田

責任問題になるんでしょうね。

久野

なんとなく先延ばしにしてる感じ。「政府としては対策してます」というポーズで、原油が上がらないように公的資金を突っ込んだり。

安田

効果はあるんでしょうか。

久野

税金で何とかできるレベルじゃないです。

安田

GO TOキャンペーンはどうですか。

久野

これだけ物価が上がると、旅行自体やめようって話になるので。施策としてはきついんじゃないですか。

安田

国民にお金配っても貯金に回るだけだし。

久野

あとは外国人ですね。がんがんに旅行に来てもらうしかないです。

安田

今それをやろうとしてますよね。

久野

ただインバウンドは回復するまでに時間かかります。

安田

ですよね。

久野

外国人向けの高級ホテルは、日本人にとってとんでもなく高くなるし。

安田

そんなところに泊まらなきゃいいじゃないですか。

久野

そこから始まって、いろんな物価が上がっていくんですよ。

安田

キューバみたいにダブルスタンダードにしたらどうですか。旅行者は高いけど国民は安いみたいな。

久野

日本って、それがないからいい国だと言われてるんです。海外ではダブルスタンダードが当たり前じゃないですか。日本人には高く売るとか。

安田

確かに。でもこの先、物価は間違いなく上がっていきますよね。

久野

まだ序章じゃないですか。本番はこれからですよ。

安田

国力の差からいくと、さらに円が下がっていっても不思議じゃないし。

久野

資源がないのがきついです。日本にはエネルギーも食べ物もないですもん。

安田

真面目に働く以外ないですよね。でも労働人口も減ってきてるし。

久野

しかも労働時間まで削ろうみたいな。

安田

やっぱり一人当たりの生産性を上げるしかないですね。

久野

それしかないでしょう。だけど日本にはそれを実現できる会社が少ないので。

安田

昔みたいに、海外に出稼ぎに行くとか。

久野

最悪そういうシナリオになっちゃいます。20代前半でアメリカに出稼ぎに行くとか。

安田

さらに国内の労働力が足りなくなっちゃいますね。

久野

でも日本の3倍稼げるとなったら、行っちゃいますよ。

安田

行っちゃいますね。しかも円安だから稼いだドルで家ぐらい簡単に買えて。

久野

だから、そうなる前に思い切るしかない。このままだと間違いなくダメになるので。

安田

何を思い切ればいいんですか。

久野

無理やりにでも給料を上げる。

安田

解雇法制を変えれば上げる企業が出てきそうですけど。

久野

それは絶対にやらないと思います。選挙に負けたくないから。

安田

じゃあ、どうやって上げていくんですか。

久野

マーケットが自然に変わってくのを待つしかないです。

安田

変わるんですかね。

久野

今回の物価上昇はチャンスとも言えます。

安田

チャンスですか。

久野

サントリーみたいに「うちは上げるぞ」って会社も出てくる。おそらく初任給は25万円ぐらいまで上がっていくと思います。

安田

一部の大企業だけじゃないですか。

久野

2割ぐらいが動き出せば、ぶわーっと8割ぐらいまで広がっていきます。

安田

そんな体力があるんですかね。初任給を上げると他の社員も上げなくちゃいけないですよ。

久野

全体的に上がっていくと思います。そうする以外ないので。

安田

それは物価が上がっていくからですか。

久野

そうです。生活費が上がったタイミングで上げていくしかない。

安田

上げられない会社も出てきますよね。

久野

上げられない会社はここ数年で淘汰されていくと思います。

安田

就職できない人とかは安くても我慢しそうですけど。

久野

もう我慢の限界ですよ。生活できないところまでいくと世の中が変わるんです。初任給25万出せない会社には本当に誰も来なくなる。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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