第190回 ジリ貧の未来

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第190回「ジリ貧の未来」


安田

この25年で84万円も手取りが減ったそうで。

久野

はい。それが現実です。

安田

1997年がピークで年収467万3000円。それが2020年には433万1000円。

久野

それに加えて社会保険料、住民税、消費税が上がり、さらに物価も上がり。

安田

ぜんぶ合わすと84万円も手取りが減っていると。すごいですよね。もし毎年キャッシュで84万円もらえたら、もうウハウハですよ。

久野

25年前はその状態だったんです。

安田

まさかこんなに減っているとは。

久野

毎年ちょこっとずつ下げられると分からないんですよ。

安田

上がってないイメージはあるんですけど、下がってたんだっていう。

久野

働き方改革で「給与が下がってる」というデータは出てます。残業代を抑えているので。

安田

残業で稼いでいた分が丸々減ってると。

久野

はい。もともと働き方改革というのは、「時間を短くして生産性上げる」改革だったはずなんです。けど賃金を上げる圧力はあまり働かなくて。

安田

労働時間が短くなったぶん給料が減っただけ。

久野

そのぶん給与が乗っかるはずだったのに、残業だけ圧縮された。

安田

残業が減ったら時間は余るはずですよね。副業して稼げばいいんじゃないですか。

久野

それでは働き方改革にならないです(笑)

安田

時間を短くして、それでも収入を維持できるのが働き方改革だと。

久野

そうですね。短くしたぶん別の仕事をしたら、働き方改革になってない。

安田

時間が余って、収入も増えて、そのお金を使ってくれれば世の中も潤い、会社も儲かると。こういう感じなんですかね、目論見としては。

久野

そうでしょうね。でも多くの会社が生産性を上げられなかった。そこが働き方改革の目論見が外れたところじゃないですか。

安田

ちなみに海外は経済が伸びて給料も増えてるじゃないですか。アメリカとか中国だけじゃなく、ほぼ世界的に一人当たりの収入が増えてる。

久野

マクロで見ればそうですね。

安田

その流れに乗れば収入は増えていく気がするんですけど。他の国に引っ張られて。

久野

普通はそうなんですよ。

安田

ですよね。その中で、日本だけがこんなに減っていくのはどうしてですか。世界的に見てそんなに国民の能力が低いわけじゃないと思うんですけど。政治が悪いんでしょうか。

久野

いや、みんな悪いんじゃないですか。

安田

みんなが悪い?

久野

はい。

安田

みんな悪いっていうのは、政治家を選んだのも国民だって意味ですか。それとも国民の能力に問題があるんですか。

久野

能力に問題があるとは思わないです。けどなかなか変化できないですよね。

安田

変化に向いていない国民性ってことですか。

久野

変化に弱いんでしょうね。

安田

何回選挙をやっても自民党が圧勝しますし。投票率も下がって、必ず選挙に行く人が自民党に入れるから。もうこの構図は変わらない気がします。

久野

そういう意味では、まだ国民にも余力があるんですよ。

安田

あるんですかね。余力があるから自民党に入れるんですか。

久野

究極のとこまで不満が高まってないと思います。

安田

究極的に不満だから選挙にも行かないわけでしょ。「自分が選挙に行っても何も変わらない」という洗脳が完璧に効いてますよ。

久野

若い人たちは政治に頼れないから、もう自分でなんとかするしかないと思ってる。社会も自己責任みたいな感じになってきてます。

安田

政治家もひっくるめて、みんな自分のことしか考えてない感じがします。いかに他人からむしり取るかみたいな国になってきてる。

久野

たとえばアメリカは「稼ぐ人を邪魔しない」っていう国民文化なんです。その代わり、めちゃめちゃ稼いだ人は社会に還元する。

安田

日本は成功者の足を引っ張りますからね。

久野

そうなんです。日本ではちょっと伸びるとみんなで袋叩きにして。サービスにもお金を払わないし。

安田

タダが当たり前になってますよね。

久野

人に高いお金を払わない限り、自分たちも高いお金をもらえない。あれが値上げした、これが値上げしたっていうニュースばかり。

安田

松下幸之助とか、本田宗一郎とか、昔は成功した人をみんなで評価してましたよね。

久野

そうですね。

安田

稲森さんぐらいまでは残ってた気がするんですけど。今はベンチャーの社長がちょっと成功すると、関係ない話でこきを下ろされたり。

久野

やっぱりSNSの影響があるんじゃないですか。自分の生活と比べちゃって、妬みの構造から「叩こう」って意識が生まれてくる。

安田

貧乏だからひがみっぽくなったのか、ひがみっぽいから貧乏になっているのか。どっちなんでしょう。

久野

両方じゃないですか。

安田

このまま行ったら、もう止まらないですよ。10年後、20年後、さらに所得が減り、さらに税金が高くなり、さらに経済が縮小する。

久野

日本人は資本主義を「富の奪い合いだ」と思っているので。誰かの幸せが、誰かの不幸せだと思ってるんですよ。けど世界ってそうじゃないんですよね。

安田

世界は違うんですか。

久野

違いますね。資本主義をどんどん大きくして、みんなが富を享受できるようにやってる。思考を変えない限り日本は厳しいですよ。

安田

偏差値教育に問題があるんじゃないですか。他の生徒の点数が下がれば、自分が同じ点でも偏差値は上がっていくじゃないですか。

久野

確かに。それを幼少の頃から叩き込まれてますからね。

安田

周りが頑張らない結果として、自分が上がっちゃうという。

久野

日本は教育のゴールが安定志向ですから。公務員や医者になって、できるだけリスクを負わずにコスパのいい生活をしたいっていう。

安田

なぜこういう国民性になったんでしょう。

久野

島国ってのもあると思います。ヨーロッパの人たちは土地とかマーケットを取りにいくじゃないですか。日本人は島の限られたマーケットで生きてきたので。

安田

でも戦後はすごい成長をしましたよね。

久野

たまたま自分たちの技術が生きて成長できたんですよ。でも今はネット時代なので。そこにマーケットを見い出せていない。

安田

ネット時代の成長分野を見出すためにはどうしたらいいんですか。

久野

意識を入れ替えて頑張るしかないです。

安田

順番からいったらまず給料を増やすべきですか。それともまずは妬み・ひがみ根性を直すべきなのか。

久野

やっぱり払うのが先じゃないですか。

安田

払うのが先ですか。

久野

まずは金利と給料を上げるべきだと思います。

安田

金利も上げなきゃダメですか。

久野

間違いなく。ただ金利は上げづらいんです。住宅ローンにも配慮しないといけないし。だけど未来のことを考えるなら、どこかで思い切って上げるしかない。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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