第335回 人件費が跳ね上がる理由

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第335回「人件費が跳ね上がる理由」


安田

社会保険の企業負担がどんどん増えていますが。今後どうなっていくんでしょうか?

久野

いま現在は「従業員51人以上の会社で週20時間以上働く人は社会保険に入らなきゃいけない」というルールなんですね。

安田

はい。

久野

そのルールが2027年には35人以上の会社に変わります。そして2035年10月からは全ての会社の全従業員が必加入になります。

安田

いつも思うんですけど。なぜこんなに細かく分ける必要があるんですか?35人以下は全部まとめてやりゃいいのに。

久野

本当に面倒なんですよ。ただ社労士事務所としては仕事が増えるのでありがたい面もありますが。

安田

いやいや。もういっぺんにやって欲しいです。

久野

でもこれって結構インパクトがありまして。人件費の15%ぐらい会社負担が増えますから。

安田

パートやアルバイトも全部ってことですよね。

久野

そうです。20時間以上働く人は全部です。

安田

要するに国民全員に社保加入させたいわけですね。

久野

そういうことです。

安田

全員加入すると財源はかなり増えるんですか?

久野

対象が一気に広がるので徴収システムとしては明らかに変わります。

安田

しかも社会保険って会社が半分負担しますからね。

久野

そうなんです。国民年金は半分が国負担なんですけど。社会保険に関してはそこが企業負担になる。

安田

国としては、みんなが厚生年金に入ってくれたらかなり助かると。

久野

かなり大きな徴収方法になるでしょうね。

安田

会社は大変でしょうけど。

久野

いや、大変ですよ。インフレ対策で頑張って給与を上げても15%は税金みたいなものなので。それとは別に会社負担も15%分増えるし。

安田

扶養控除の「103万円の壁」はここに影響するんでしょうか?

久野

103万円の壁は税金の壁なので社会保険とは少し違いますが、国としては103万の壁を取っ払いたいんです。これが無くなれば基本的には全員社会保険に入るので。

安田

たとえば専業主婦の人はどうなるんですか。

久野

全く働かない人はもちろん社会保険には入りません。でも今どきは主婦でも20時間くらいは働きますから。20時間働いた時点で社会保険に全員が入る。

安田

全く働かない主婦のほうが稀ですからね。

久野

そうなんです。共働きはもう大前提なので。現役世代は全員社会保険に入ってもらうということですね。そうなると税金の壁も気にならなくなってきます。

安田

じゃあ扶養控除はなくなっていく方向ですか。

久野

扶養控除って実は悪い側面があって。これがあるから収入を抑えようって発想になる。そこが取っ払われると女性も真剣に稼ごうって話になる。

安田

まあそうでしょうけど。

久野

そうすると「GDPも上がるよね」っていうのが国家の意図なんです。

安田

なるほど。

久野

そうなると安い仕事は女の人も「もうやりたくない」って話になる。世の中から安い労働力が消える。

安田

スーパーのレジから人がいなくなると。

久野

はい。そこで設備投資が出来ない会社は潰れます。高い給料を払えない会社も潰れる。

安田

レジの無人化って本当に可能なんですかね。今でも無人レジってありますけど横に店員さんが立ってずっと見張ってますし。

久野

それは僕もずっと思っていました。何のための無人レジなんだろうって。空港の搭乗ゲートもそうですよ。QRコードをかざす横にずっと人がいて。ほぼ無意味です。

安田

万引きとか悪いことをする人の対策でしょうけど。すごい無駄ですよ。

久野

中途半端に人件費が安いからこんなことになるんでしょう。社保加入も含めてもっと高くなれば革命が起きると思います。

安田

おじいちゃん、おばあちゃんは反対しますけど。真面目な話いい加減キャッシュレスにした方がいいですよ。買い物するときは必ずクレジットカードで登録してもらって。

久野

そしたら万引きの心配もないですよね。

安田

中途半端にキャッシュがあるから設備に余計なお金がかかる。全員マイナンバーに紐付けて口座登録もしておいて。

久野

それぐらいやらないと劇的な効率アップは無理でしょうね。この前デンマークに行ったらポストがなかったですから。

安田

当然ですよ。ハガキを数十円で届けてもらうためにどれだけの人件費がかかっているか。

久野

国民もそれを理解しないといけないですよ。報酬が増えるってことは「人を安く使ったサービスは受けられなくなる」ってこと。コストが上がっていくのはもう止めようがないです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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