第306回「大企業の出世事情」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第305回「新卒が会社を選ぶポイント」

 第306回「大企業の出世事情」 


安田

大企業が3年ぶりに1万人超の早期退職を募っています。しかも業績がいい会社まで。

石塚

余裕があるうちに45歳以上をなるべく減らしておきたいから。

安田

上が重たいってことですよね。大企業は。

石塚

2027年をピークに45歳以上の割合はどんどん減っていくんですけど。それを加速させたいんでしょう。

安田

放っておいても減っていくのに更に加速させたいと。

石塚

20代の中途採用者に高年収提示するようになってきてるから。

安田

その原資を確保しなくちゃいけない。

石塚

そう。わかりやすい図式なんですよ。総額人件費の配分を変えてるだけ。

安田

上を減らして下を手厚くしたいわけですね。この傾向はずっと続くんですか?

石塚

加速すると思います。

安田

とはいえ今の20代もいずれはアッパー層になっていくわけです。

石塚

おっしゃる通り。

安田

そうなったら彼らにも早期退職を促すんですか? 

石塚

はい。同じこと繰り返すと思います。

安田

それが分かっていても入ってくるんでしょうか。

石塚

入ってくると思います。リクルートなんて昔からそういうやり方じゃないですか。若いうちからチャンスを与えて、給料もどんどん払って、40過ぎたらもう次のキャリアに行ってくれと。

安田

つまり日本の大企業はリクルート化していくってことですね。

石塚

はい。事実上の定年を40ぐらいにして、出戻りもいれば中途入社もいれば、ものすごく優秀な人は再契約してもっと高い年俸で残る。「40歳以降の生産性が高くなると同時に多様化する」というのが僕の読みです。

安田

中間層の人材が不足しませんか?マネージャーとか。

石塚

外部からどんどん入ってくるでしょうね。

安田

限りなく外資に近づいていく感じでしょうか。

石塚

それに近いと思います。少し日本的には変容するけど大きな流れとしてはそっち。

安田

外資ほどドラスティックではないけど、おおむねその方向に行くってことですね。

石塚

プロ野球みたいな組織になるんじゃないですか。生え抜きでずっと行く人もいるけどトップ層はFAでどんどん移って、監督やコーチは外部から優秀な人を招聘してくる。

安田

なるほど。チームの生え抜きが監督になる時代はもう終わりと。

石塚

プロ野球でもそういうチームは低迷していますよね。巨人とか中日とか。

安田

その点メジャーリーグは合理的ですよね。監督やコーチはスペシャリストとしてスキルを磨いた人がやる。若くても能力があれば抜擢されて。

石塚

そうなっていかざるを得ないでしょう。

安田

少し日本的に変容するとおっしゃっていましたが。どのあたりが違うんでしょうか。

石塚

大企業っていろんな部門を持ってるじゃないですか。

安田

はい。関連会社も多いですよね。

石塚

おっしゃる通り。1つの会社に30ぐらいの会社が同居してる感じ。そこに主流部門と傍流部門があるわけですよ。

安田

主流じゃないと出世できないんですよね。

石塚

実はこの10年でその傾向が変わってきていまして。手腕のある経営者が傍流部門から抜擢されて上にいくパターンが結構うまくいってるんです。

安田

傍流から抜擢されるんですか?大企業は1回でもミスして「主流から外れたら終わり」というイメージです。

石塚

そこが変わりつつあるんですよ。キリンホールディングスのトップはそっちですね。新卒でいきなりホテル部門に行かされて「俺がホテル!?」なんて思ってた人が今やトップ。

安田

へえ〜。大企業も変化してるんですね。

石塚

ずっとビール部門にいる人より客観的に主力事業を見てるから。手腕としてもすごく優秀ですよ。

安田

大手で出世するには1回主流から外れた方がいいってことですか。

石塚

そういう流れができてくるかもしれません。ただし出世思考の人がそもそも減ってます。

安田

大企業で出世思考じゃない人っているんですか?

石塚

そっちの方も多いんですけどね。一見爽やかで、前向きで、与えられた仕事もしっかりこなす。だけど自分軸やビジョンや野望なんてあまりない。「平均やや上ぐらいをキープできればいい」という人たち。

安田

そんな人たちで成り立つんですか?

石塚

出世したい人もゼロではないし、外から引っ張ってきてもいいし。真面目で優秀な人が現場にたくさんいるから。それで十分なんですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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