第23回 理想の政治家はブレずに決断ができる人

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第23回 理想の政治家はブレずに決断ができる人

安田
以前、「独裁者マニュアル」を書きたいと仰っていましたよね(笑)。独裁者というと一般的には悪者のイメージがあるんですけど、国を運営していく中で「いや独裁も必要だよ」ということがあるんですか。

酒井
まあ、「独裁が必要だ」とは立場上言いにくいですけど(笑)。役所として一番困るのは、意思決定ができない政治家なんですよね。官僚が作った原案に対して判断を下すのが政治家なので。
安田
日本は決められない政治家が多そうなイメージですけどね。自分が悪者になるような決断はしたがらないというか。

酒井
ええ。何か決断すると責任が生じますからね。「責任を負ってやるぞ」って言える政治家が少ない。
安田
確かに、なかなかいないですよね。だからこそ日本からは独裁者が出にくいんでしょうかね。

酒井
ちなみに歴代の総理大臣を考えたとき、小泉元総理は「決断できる政治家」と見られることが多いですよね。でも実は私の中での評価はものすごく低いんです。
安田

へぇ。小泉純一郎さんは皆大好きでしたよね。


酒井
ええ。猛烈に支持率が高かった。あの当時は、それこそ独裁者に近いぐらい「これをやるぞ!」って決められる状況だった。でも結果として、彼は郵政民営化以外は何もしなかったんです。
安田

ははぁ。ちなみに官僚さんとしては、どんなことを決めて欲しかったんですか?


酒井
それこそ「もう老人の時代じゃないから、我々が傷を負ってでも若者のためにお金を使おう」とか言ったら、意外と「そうだそうだ」ってなったかもしれない。
安田
確かにそうですね。それを小渕さんや森さんが言ってもなかなか聞いてもらえないでしょうからね(笑)。

酒井
そうなんです(笑)。だからあのときが日本にとって最後のチャンスだったんじゃないかと思うんですよね。言ってみれば「ノーアウト満塁のチャンスで見逃し三振した人」みたいな印象で、評価が低いんです。
安田
なるほど、せめてバット振れよと(笑)。

酒井
そうそう(笑)。もちろん岸田さんも決められないって意味では評価は高くないですが、今の岸田さんの立ち位置と状況を考えると仕方ない部分もある。
安田
やっぱり小泉政権のときが一番のチャンスだった。

酒井
ええ。世論の支持もあって自民党内の支持もあって、仮に支持がなかったとしても「俺の敵は国の敵だ!」とか言って仲間も作れたと思いますし(笑)。あれだけ強い力がある政治家が何もできなかった。それが私の「独裁者マニュアル」の根源でもあるんです。
安田
なるほど。小泉さんは人気もすごくあって、いろいろやってくれたように国民は思っているけど、官僚目線では何もやってなかったと。

酒井

そうですね。小泉首相は郵政民営化以外やりたいことがない政治家だったんですよ。でも、結局、郵政民営化も中途半端になってるのが現実なわけで。

安田

ちなみに「非正規雇用を増やしたのは小泉さんと竹中さんだ」とよくネットには書かれますけど。官僚さんからするとあれはどう思ってらっしゃるんですか?


酒井
うーん、その辺の規制緩和って1995年ぐらいから始まっていて、リーマンショックくらいまでは基本的に規制緩和路線なんですよね。
安田
ということは、小泉さんと竹中さんはその間にいただけなんですか。

酒井
そうなりますね。「構造改革」という言葉も小泉さんがよく使っていましたけど、実はその前から既に使われていましたし。だからその路線にたまたまちょっと乗ったっていう感じなんですよね。
安田
ははぁ、なるほど。別に彼らが非正規雇用を増やした犯人ということでもないと。

酒井
そうですね。もっと言うと、小泉さんは郵政民営化がやりたくて、それを実現するために構造改革という言葉をうまく使ったっていう感じですね。
安田

なるほど、イメージとだいぶ違いますね。独裁者に話を戻すと、「独裁」と言えるほど圧倒的な権力を持っている人の方が、官僚さんたちとしても物事を進めやすいっていうことなんですかね。


酒井

まさにそういうことで、役人的に言うと「ブレる」ってすごく嫌なんですよ。「この前は大臣が機嫌良かったからOKだったけど今回は駄目です」とか、役人的には許せない(笑)。

安田

笑。それこそオーナー社長とかだったら、機嫌がいいときと悪いときで言ってることが違うとかありますけどね。


酒井

そうですね(笑)。国の政策に関しては、大臣がこうだって決めたことは誰に言われてもそのまま貫いてほしいんですよね。そうじゃないと、その下の人間は何をしていいのかがわからなくなっちゃうんで。

安田
それはそうですよね。でも日本の政治家って機嫌によって変わる人も多そうですけど……

酒井
そうなんですよ。なので、「いや、大臣この前言いましたよね」と議事メモを取ったり、「この件はこれで大丈夫ですよね」と確認を取る作業を役所は頑張っているわけです。
安田

そういう涙ぐましい努力がなされているわけですね(笑)。


酒井
そうなんです(笑)。ベースの部分がブレてしまうと皆にも説明できなくなるので。
安田
「イエスかノーかはっきりしろ」とかって怒られるのは現場ですからね。
酒井

そうなんです。そうなると困るので、そういう意味では「ブレない政治家」は、役人から見た一つの理想ではありますね。

安田
なるほど。ブレずに責任が取れて決断ができる人だったら、独裁者でもいいんじゃないかってことですね。
酒井
そうです。ただ、独裁者の方がブレて感情で動くかもしれないですけど……
安田
独裁者というよりはやっぱり権力者なんですかね。独裁者になればなるほどなんか最後は人のせいにしちゃいますからね(笑)。
酒井

確かに、そういう傾向もありますね(笑)。


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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