医者だって病気になるのです
外科の適性って何ですか。
そもそも私は選択基準を間違えていて。
ほう。
自分は「人の話を聞いたり共感したりするのが得意だ」っていう自覚があったんです。だから共感しすぎちゃうと、患者さんに感情移入しすぎちゃうんじゃないかなと思って。
それで外科を選んだわけですか。
学生の浅知恵で。「外科だったら手術して、切って終わりじゃないか」と思ったんです。実際には患者さんとの共感もすごく大事なんですけど。
そりゃそうですよね(笑)
そういう基準で外科を選んでしまったんです。
だけど適性がなかったと。
私は手先がぜんぜん器用じゃなくて。
外科医って器用じゃないとだめなんですか。
「そんなことない。トレーニングすれば大丈夫」って外科の先生はおっしゃるんですけど。でも好きじゃないから練習しないんですよ。
どんな練習が必要なんですか。
たとえば手術が好きな先生って、ひまがあれば糸結びの練習をしてるんです。手術用の糸を結ぶ練習。
へぇ~。
時間さえあれば手術を見たり、解剖書を見て研究したり。私はそういう興味がもてなくて。「好きで才能がある人には勝てない」って思ったんです。
それで内科に移った。
呼吸器外科というところにいたんですけど、同じ呼吸器系の内科に移って就職したんです。だけど科を変えてみて「私がやりたいのは臨床医じゃないんだ」ってことがわかって。
臨床医というのは、いわゆる町のお医者さんとかですよね。
そうです。いわゆる、みなさんがイメージするような、病院とか診療所とかで患者さんの診断をして、治療するお仕事です。
まさに患者さんと対話する仕事ですよね。
臨床医に必要なのは治療なんです。当然ですけど病気になった人が来るわけで。だけど病気って急になるわけじゃなくて、積み重ねでなっていくわけですよ。
ストレスとか生活習慣の積み重ねでしょうね。
そう。だとしたら、もっと根っこのところで「予防に関わりたいなあ」と思って。
それで産業医になったと。
じつは私自身が卒後4年目の頃に適応障害になって病院に行けなくなっちゃって。当時いた病院がめちゃくちゃ忙しくて。週に2~3回当直があって体も心もボロボロで。
なんと。
寝られないんですよ。救急車がいっぱい来る病院だったので。体もボロボロで、「もう続けられない」と思って、いったん止まって人生を見つめ直すことにしました。
しんどい時は休んだ方がいいです。みんな無理しすぎなんですよ。
それで病院は辞めて大学院に行くことにして。教授に「人生に迷っていて、とりあえず病院辞めてきました」「大学院でがんばります」ってあいさつに行ったんです。
なるほど。
そしたら「じゃあ実礼、大学に戻ってこい」って、たまたま空いたポストに戻してもらって。
大学で働き始めたわけですか。
はい。社会学系の、それこそ産業医をやっている研究室に拾ってもらって。
そこから産業医になっていくわけですね。
もともと予防には興味があったので。その教室は生活習慣とか、「働き方と病気の関係」とかを研究する研究室だったんです。
> 第3回「 精神科医は心理学を知らない!? 」へ続く