『社長は自ら終わりを決める』終わりから考える重要性【1/4】

ーこの対談についてー
私(安田佳生)が終わりを意識し始めたのは、まさに終わった時。すなわち会社が潰れた時です。終わると思っていなかったことが終わる。そのとき痛感したのは「終わりを想定していなかった愚かさ」です。会社にも、人生にも、あらゆるものに終わりはあります。終わることが問題なのではなく、自覚がないままに終わっていくことが問題なのです。この対談は、ご葬儀というまさに「人生の終わり」を仕事にしている鈴木社長(のうひ葬祭 代表取締役)に、私の率直な疑問をぶつけたものです。社長の終わり、社員の終わり、夫婦や友達の終わり、そして人生の終わりについて。終わりから考えた二人の対談をぜひご一読ください。

『社長は自ら終わりを決める』

安田
安田
鈴木さんは人生の終わりとか、会社の終わりとか、考えたことありますか。
鈴木
鈴木

ああ、自分の終わりっていうのは考えてます。すごく長生きしたいとも思ってないので。

安田
安田
そうなんですか。
鈴木
鈴木
母親は53で亡くなったんで、ちょっと早すぎですけど。父親が80手前だったんで、まあそれぐらいでいいかなあと。
安田
安田
80まで生きたら十分でしょ(笑)大往生ですよ。
鈴木
鈴木
上限がそこまでって感じ(笑)
安田
安田
下限はどうですか。
鈴木
鈴木
下限は、まあ60は超えたい。じつは僕60で社長をやめようと思ってまして。
安田
安田

え!そうなんですか。

鈴木
鈴木
はい。いまの、この会社は60で引退しようかなと。
安田
安田
私は前の会社がつぶれてからなんですよ。終わりから考えようって思い始めたのが。
鈴木
鈴木
何年前でしたっけ。
安田
安田
ちょうど10年前です。私の場合は終わらされた感じですけど。
鈴木
鈴木

ちょっとお聞きしたいんですけど。安田さんが考える社長の終わりって「会社を引退する」ってことですか。どういう「終わり」ですか?

安田
安田

いま考えてるのは「売却する」という終わりです。

鈴木
鈴木

社長をやめて一般人になるってこと?

安田
安田

別の会社の社長をやってもいいですけど。「ひとつの会社の社長を20年以上やらないほうがいい」って言われて。実感としては15年ぐらいが限界かなと思ってます。

鈴木
鈴木
なんか、ちょっと分かる気がします。僕も、いちばんウワーって仕事をやれたのは、たぶん10年目ぐらいでした。
安田
安田
いま何年目ですか?
鈴木
鈴木
ちょうど20年。
安田
安田
私は「社長は自分で終わりを決めるべき」と思ってまして。理由は二つあるんですけど。まず「会社にとって自分がベストかどうか」ってこと。
鈴木
鈴木

なるほど。

安田
安田
高齢ドライバーさんで、免許返納しない人いるじゃないですか。
鈴木
鈴木

それと同じだと(笑)

安田
安田
運動神経とか反射神経って人によると思うんですよ。で、「自分はまだまだ大丈夫」ってみんな思ってる。
鈴木
鈴木
返納しない人は思ってるでしょうね。
安田
安田
政治家も「しがみつきだ」って言われますけど。本人はきっと「若いやつじゃ無理。俺がやるしかないだろ」って、たぶん思ってる。
鈴木
鈴木
思ってそう(笑)
安田
安田
じつは私もそう思いながら20年社長をやってたんです。でも今から振り返ってみると、すごく視野も狭くなってたし、自分の立場に慣れすぎちゃってました。
鈴木
鈴木
慣れっていうのは大きいですね。
安田
安田
社長って、自分がやりたいようにできちゃうじゃないですか。
鈴木
鈴木
そうですね。

安田
安田
いま考えたら、もうちょっと適切に交代しておくべきだったと。
鈴木
鈴木
それはいつ頃がベストだったんですか。
安田
安田

一番いい時でしょうね。会社が。

鈴木
鈴木
いい時ですか。
安田
安田
はい。あとから振り返ったらわかるんですけど、その時は分かりませんでした。たとえば会社がつぶれそうになってからは、誰も交代してくれないです。
鈴木
鈴木
まあ、それはそうやね(笑)
安田
安田

うまくいってる時がいちばん交代しやすい。でも、うまくいってる時って、自分自身も絶好調なので、なかなか自分で交代しようとは思わない。

鈴木
鈴木
逆にすごく勇気がいりますよね。
安田
安田
だから私の結論は、スタートするときに「何年の何月にやめる」って決めちゃうこと。
鈴木
鈴木
なるほど。
安田
安田
「あと2年で辞める」とか突然言いだしても、なかなかうまくいかない。完璧な引き継ぎなんてできない。結局のびのびになっていくんです。
鈴木
鈴木
分かる気がします。
安田
安田
だから「15年目で終わり」って最初に決めておく。うまく行こうが行くまいがそこで終わり。そしたら、そこから逆算して今年なにすべきかって考えると思う。
鈴木
鈴木
終わりがあるのは大事だなって仕事柄すごく思いますよ。
安田
安田
とくに社長業は終わりを決めておくことが大事。うまくいってるときは「つづけたい」って思うし、大変になってくると一人で背負っちゃうので。その時の判断で辞めるのは難しい。
鈴木
鈴木
実感こもってますね(笑)
安田
安田
だって社員にはやめる自由があるでしょ。社長はやめられないじゃないですか。
鈴木
鈴木
そうですね。やめさせてもらえない。
安田
安田
やめても借金ついてくるので。自分や家族を守るには売却しかない。うまくいってるときに売却して、自分よりも適してる社長さんに任せる。それがベスト。
鈴木
鈴木
それができたら理想的ですね。
安田
安田
まだ経営に興味があるのなら、また別のビジネスをやってもいいし。
鈴木
鈴木
いま54になりましたけど、10年ぐらい前にそういう話がありました。
安田
安田
売却の話ですか?
鈴木
鈴木
「一緒にやりましょう」っていうM&Aの話がありました。けど、そこの選択はちょっとできなかったですね。
安田
安田
鈴木さんの場合は先祖代々の仕事でもありますし。そう簡単に自分の意思だけで売るわけにはいかないですよね。
鈴木
鈴木
自分としてはちょっと落ち込んでた時期があって。真剣に考えましたよ。
安田
安田
へぇ~
鈴木
鈴木
だけどやっぱり、ちょっと体裁を気にしちゃいました。「あいつ売りやがったぞ」みたいな(笑)
安田
安田
やっぱり会社を売るって、昔だったら「逃げた」とか「だめだった」とか、倒産や廃業に近いイメージですもんね。
鈴木
鈴木
そうそう。
安田
安田
いまは時代も変わりましたから。終わりから考える若い経営者も増えてますよ。
鈴木
鈴木
アメリカのシリコンバレーなんかそれが普通ですもんね。
安田
安田
そうなんですよ。ゼロからイチをつくりだすのが得意な人と、それを大きくしていくのが得意な人と。やっぱりステージによって違うので。
鈴木
鈴木

僕は圧倒的に「ゼロイチ」ではないですね。「イチを大きくする」ってことしかできない。

安田
安田
イチを10にするか、10を100にするか、100を1,000にするか。これもまたちがう能力ですよね。
鈴木
鈴木
ちがいますね、はい。
安田
安田
最近の若者で多いのは「10年」とか決めて起業する人。売却した資金でまた事業をやるか、投資家になるか。最初から割り切ってやってます。
鈴木
鈴木
僕らの世代のような罪悪感がないってことですよね。
安田
安田
ぜんぜんないですね。私は会社がつぶれるまでやっちゃいましたけど。いま振り返って思うのは、「社長は会社を売るときに罪悪感なんか抱いちゃいけない」ってこと。
鈴木
鈴木
言い切りますね(笑)
安田
安田
社員には会社をやめる権利があります。どんなに手塩にかけて育てても「やめる」って言われたら無理やり引きとめられない。
鈴木
鈴木
そうですね。
安田
安田
恨み言も出ちゃうと思うんです。「こんなにお金かけて、こんなにかわいがってやったのに」って。でもそれはよくないと思ってまして。
鈴木
鈴木
よくないですか(笑)
安田
安田
そこはやっぱり快く送り出すべきかなと。だから社長が会社を売るときも、社員は快く社長を送り出すべきなんですよ。これはフィフティー・フィフティーなんです。
鈴木
鈴木
そういう言い方はじめて聞きましたね(笑)
安田
安田
私は実体験からそう思います。「会社を売る」ってことは「社員を売る」ってことでもあるじゃないですか。
鈴木
鈴木
そうですね。僕も売却が頭をよぎった時は新卒採用したばかりの社員がいて。自分の思いで引っ張ってきてるじゃないですか。
安田
安田
新卒は特にそうですよね。
鈴木
鈴木
「自分がいなくなったら、その人はどうすんの?」って。よぎりました。
安田
安田
いいんですよ。新卒が入社した次の年に辞めたって。
鈴木
鈴木
「いいんですよ」じゃない(笑)
安田
安田

社長は「社長」っていう単なる役割だと思うんです。

鈴木
鈴木

ああ、それはすごく思います。舞台をつくるとすると、大道具さんがいたり、メインの主役がいり、助演がいりとか。そういうことですよね。

安田
安田

そうです。「会社」というドラマのなかの社長役をやってるだけ。べつに特別でもなんでもないんです。

鈴木
鈴木

うん。なるほど。

対談相手:鈴木 哲馬
株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役
昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

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4件のコメントがあります

  1. 哲馬さん。いつも直向きに走っている
    お姿は、ステキです。
    私も社長20年、これから後どのように
    会社を後始末をするのかを考えておりました。とても参考になる対談でした。
    有難う御座います。

  2. 福井君、コメントありがとうございます!私もこの対談を通じて改めて考え直すことが沢山ありました。

  3. 哲馬さんのお話しで、私の人生をどのように生きるかを考えるきっかけができました。
    80歳で死ぬ。70歳までは車に乗る。
    55歳で引退。という感じで逆算して考えると、いかにあと残りの人生が短いかわかりました。
    ありがとうございます。

  4. 川野君、コメントありがとうございます。私も川野君の歳の時は前だけ向いて必死にやってました。でも、振り返ってみると誰も居ないみたいな状態で「何のためにやって来たのだろう?」と結構な期間悩みましたね。
    でも今思えばその時はそういう時だったのでしょう。この対談を通して「今はどういう時なのか」を考えていこうと思います。
    その時の自分にとって良いこと、悪いことと感じるがあると思いますが、それが起きた意味を自分なりの納得解を探していこうと思います。

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