地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第60回 バゲットが「日常のパン」になるには?

スギタベーカリーさんでもいろいろな種類のパンを作っていると思うんですが、私はフランスパンとかドイツパンのようなハード系のパンが結構好きなんです。でもよく考えたら子どもの頃はあまり得意じゃなかったなと。

そういえば母もドイツパンが好きだったんですけど、硬い耳の部分を好んで食べていて。私は中の柔らかいところだけつまんでいた記憶があります。やっぱり大人になると、あの香ばしさが美味しく感じられるようになるんでしょうね。

あれは添加物や酵素など、いろんな技術で柔らかさをキープしているんです。世界的に見ても珍しいパン文化だと思います。ライ麦パンとか、カンパーニュみたいな外側がバリッとしたパンも美味しいんですけどね。複雑な味わいが料理やお酒にも合いますし。

本格的なパン屋さんを見かけると、つい買いたくなりますよね。でも、いいものだからと子どもにも食べさせようとしても、ぜんぜん食べない(笑)。子どもは特に柔らかいパンが好きなんでしょうね。DNAなのか何なのか……

懐かしさを感じるんでしょう(笑)。「パンの味」というより「文化の味」というか。ウチでも柔らかいパンの方が品目としては多いですが、それだけだと僕らとしても物足りないので、皮がバリっとしていたり、複雑な味のハード系のパンも意識して作っています。

ああ、確かに。ワインを飲むとか、夕飯のメニューがビーフシチューだったりしないと、わざわざ食べないのかもしれませんね。美味しいバゲットとチーズ、それにディップやシチューがあれば、もうそれで完結するんですけどね。

そうなんですよ。だからクリスマスはバゲットが1年で一番売れるんです。そういう洋風のイベントの時はお米よりバゲットがいいってなるんでしょうね。逆に言えば、普段はそこまで動かない。食パンは毎日買いに来られる方も多いんですけど。

わかります。見つけると学生時代を思い出してつい買ってしまうんですよね(笑)。でもそれらを全部扱ってるって、あらためて考えるとすごいですよ。海外の人が食べても美味しい本格的なバゲットも作りながら、一つ一つ手作りの総菜パンも出しているわけで。どちらかに振り切ることは考えないんですか?

考えなくはないですね。総菜パンや菓子パンって全部手作りしようとするとすごく手間もコストもかかるので。もしかすると、これからは「うちのバゲットはこれで勝負!」って発信していく方が、可能性があるのかもしれないなとは思います。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。