地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第63回 売れ残ったケーキは、どこへいく?

もちろんそういう日があったり、ご近所におすそ分けすることもあるでしょうけど、毎日ではないでしょうね。端的に言えば、「ゴミとして廃棄する」っていうケースが多いと思います。うちも最初の何年かは「その日のものしか売らない」って徹底してましたし。

めちゃくちゃ手間です(笑)。正直、ゼロから作った方が早いこともあります。でもフードロスを減らす目的なので。

うちはやってないですね。割引目当てで来られるのもちょっと悲しいですし、ブランド価値を守るっていう意味合いもあって。一般的にも、ケーキ屋ではあんまりやってないんじゃないかなぁ。パン屋ではけっこう見ますけどね。

ええ。すごく胸が痛いです。だからこそ先ほど出たようにリメイクなどを頑張っているわけですけど、ともあれ廃棄をゼロにするのは至難の業で。そこを優先するあまり新鮮でないものをお売りするようになったら本末転倒ですし。

お店の規模にもよると思いますが、うちの場合は圧倒的にパンですね。単純に作る量が多いし、お客さんの数も多いので。夕方のタイミングで焼きたてをお出しすることもあって、それが思うように売れなかったりすると…

そうなんです。閉店が5時なので、4時以降に焼くことはほぼないんですが、だいたい3時から3時半くらいに焼くか焼かないかを判断しますね。焼き上がってから1時間くらいは「焼きたて」としてお出しできるので。

そうなんです(笑)。せっかく来ていただいたのにガランとしたショーケースでがっかりさせたくもないですし。だからいつも悩むんですが、看板商品であるイチゴのショートケーキだけは切らさないようにしてますね。

ああ、なるほど。それでいうと最近はちょっと消費者の価値観が変わってきている気がしますね。数年前なら「これだけしかないの?」って言われたかもしれないけど、今は「遅く来たから当然か」って納得される方が多い。

「作りすぎたらフードロスにつながるもんな」って考えられるようになったんでしょう。そういう意味では「4時以降は品揃えが減ります」とか、「この商品は14時までにどうぞ」って、ちゃんと伝えるといいかもしれないですね。

ああ、その方がいいですね。来店タイミングを合わせてくれるお客さんが増えると思いますし、誠意ある対応になりますよね。僕自身、「ギリギリまで揃えておくことがサービス」っていう感覚がもう古いんだろうなと思っているので。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。