第74回 「うまくいかない飲食店」に共通するものとは?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第74回 「うまくいかない飲食店」に共通するものとは?」

安田

我々経営者って、街を歩いていても他社の経営具合がつい気になってしまうじゃないですか。意識するとそればかり目に入るというカラーバス効果というのがありますけど、スギタさんも同業のお店が自然と目に入るんじゃないですか?


スギタ

ええ、仰るとおりで。でも同業のケーキ屋さんやパン屋さんだけじゃなく、飲食店全般がけっこう目に入りますね。

安田

ああ、なるほどなるほど。ちなみにスギタさんくらいになると、「この飲食店はうまくいかないだろうな」ってパッとわかっちゃったりするわけですか。


スギタ

それは正直わかっちゃったりしますね。ケーキ屋やパン屋に関して言えば、外観を見たりお店に入った瞬間にわかることもあったりして。

安田

ほう、ぜひ聞いてみたいですね。例えばどんなところがダメだと感じるんですか?


スギタ

わかりやすいところでいうと、まずは「暗い店」ですよね。もちろん意図的な演出で暗くしているお店は別ですが、そうではなく単純に照度が足りていないのはNGです。薄暗いお店なんて行きたくないじゃないですか。

安田

ああ、それでいうとスーパーなども、電気代をケチって蛍光灯を減らすと、むしろお客さんがガクッと減るって話を聞いたことがあります。お客さんのワクワク感が失われて、足が遠のいちゃうんですって。


スギタ

ああ〜、まさにそれです。僕がお店を始めたばかりの頃も、先輩経営者に「売上を上げたかったら、周りのどの店よりも照明を明るくしろ」とアドバイスされたことがありました。「ショーケースの明かりももっと明るくしろ」と。

安田

はは〜、なるほど。ちなみに当時はそのアドバイスに従ったんですか?


スギタ

ええ、従いました。そのために改装までしましたから(笑)。でもそうしたら本当にお客さんが増えて、照明だけでもこんなに違うのかと驚きましたね。

安田

へぇ! それはすごい。でも実際光の当て方一つで、商品の見え方もお店の印象もガラリと変わりますもんね。そして何より、アドバイスを素直に実行できるのが偉いですよ。多くの人は、助言を求めてくるくせに結局やらないですから。


スギタ

笑。それ、自分がアドバイスする立場になってみると痛感します(笑)。ほとんどの人は行動に移さないですよね。「なんで聞きに来たんだろう」って思うんですけど(笑)。

安田

本当にね(笑)。ともあれ、特に食品は「見え方」がすごく大事じゃないですか。写真のクオリティによって購買意欲が全然変わりますから。


スギタ

確かに確かに。ただ個人的には、そっちばかりに興味がいくのも寂しいんですよね。例えば製菓の大きな展示会も、今までは有名シェフのデモンストレーションが一番人気だったのに、最近は「SNSでどう見せるか」みたいなレクチャーの方に人が集まるようになっていて。

安田

ふ〜む、なるほど。でもこのスマホ全盛の時代には仕方ない気もします。「美味しいかどうか」はもちろん大事なんですけど、それと同じかそれ以上に「美味しそうに見えるか」という観点が重要になっている。


スギタ

そうですね。実際すごく大事な部分ですし。写真一つとっても、背景に散らかったバックヤードが写り込んでしまっていたりしたら、むしろマイナスプロモーションですもんね。

安田

そうそう。要するにいかに「お客さんの視点」を意識できているかなんだと思いますね。写真だけじゃなくて、たとえば従業員への態度でその店の将来性が見えたりもするじゃないですか。例えば先日も歯医者さんで、先生が歯科衛生士さんを患者の前で怒鳴りつけている場面に遭遇したんですけど。

スギタ

ああ〜、それは嫌な経験でしたね。飲食店でも、店長がバイトに注意しているのが客席から見えてしまうみたいなケースがありますよね。

安田

そうそう。もっと言えば、そういうシーンを目の当たりにしてなくても、うまくコミュニケーションが取れていないのって意外とわかっちゃう。「なんかこの店空気重いな」みたいな。


スギタ

わかります。そういう意味では「この店うまくいかなそうだな」というのは、直感的・本能的に何かを感じているのかもしれませんね。それこそ目に見えない「空気感」がそう感じさせているのかも。

安田

そうでしょうね。考えてみれば大変な時代です。美味しい商品を作るのも、美味しそうに見える写真を撮ることも当然で、かつお店の空気感までプロデュースしないといけないわけですから。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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