第76回 人生を豊かにする「四毒」との上手な付き合い方

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第76回 人生を豊かにする「四毒」との上手な付き合い方

安田

健康に関する話題で気になっていることがありまして。最近流行っている「四毒(よんどく)」って言葉、ご存じですか?


スギタ

いえ、初めて聞きました。

安田

四つの毒、つまり体に悪いものとして、小麦、植物性の油、乳製品、そして砂糖などの甘いものの4つだそうで。これらを体から抜くと健康に長生きできる、と言われてるんです。


スギタ

へぇ、そうなんですか。お酒が1合でも体に悪い、というニュースはつい気になって読んでしまうんですが(笑)、これは知らなかったです。小麦に乳製品に砂糖……僕の仕事の根幹を揺るがすような話ですね(笑)。

安田

そうなんです(笑)。まあでもね、まったくピンと来ないわけでもないんですよ。前回お話した「お酒と食品の相性」もそうですけど、昔は海外旅行もなかったはずで、何百年何千年とその地域のもので体ができてるわけですよ。つまり地場の食品と自分の肉体も密接な関係があった。


スギタ

確かに、それでいうと日本人の体には小麦より米の方が合うというのは理解できますね。

安田

そうそう。私もこの年になると体の変化に敏感になってくるんで、米と納豆と味噌汁みたいな、いわゆる粗食が一番体に優しいなって感じるんですよ。とはいえたまにはローストビーフとバゲットも楽しみたいじゃないですか(笑)。


スギタ

わかります(笑)。お酒と一緒で、毎晩浴びるほど飲んでますっていうのはよくないですけど、嗜む程度に楽しむのはいいと思いますよ。

安田

そうそう。そのバランスが大事なんですよね。だから仮に四毒の話にある程度の信憑性があるとしても、それを全部断つってのはどうなんだろうと。


スギタ

ええ。小麦が日本人の体質に合わないことがある、というのは僕もリアルな話だとは思います。ケーキも嗜好品ですから、毎日すごい量を食べ続けるのは絶対に良くない。でもたまに美味しいコーヒーと一緒に食べたりした時、それでしか満たされないものって絶対にあるじゃないですか。

安田

そうですよね。逆に言えば、そういった幸福感を人生から奪ってまで、数年長く生きることにどれほどの価値があるのか、と考えてしまいます。


スギタ

お酒もケーキもパンも、人生を豊かにしてくれるものですからね。全部を排除しちゃうのは、あまりにももったいない気がします。

安田

そうですよ。いくら体が健康でも、そういう楽しみがなかったら、はたして「生きている」と言えるんだろうかと。


スギタ

そういえば、フルマラソンを走った直後に提供されるバナナやオレンジが、信じられないくらい美味しく感じるんですよ。普段食べても何とも思わないのに、「オレンジってこんなに美味しいの!」って衝撃を受けるというか。

安田

ああ、体が極度にエネルギーを欲しているんでしょうね。


スギタ

そうなんです。その時に、美味しさって、食べる側の状況によってとんでもなく増幅されるんだなって。

安田

ああ、それは間違いないですね。「空腹に勝るご馳走なし」と言いますし。逆の話で言うと、この間、大好きな寿司屋に友人を連れて行ったら、店に入るなり「俺、昨日寿司食べちゃったんだよな」とかって言うんですよ(笑)。

スギタ

それはちょっと、デリカシーがないですね(笑)。

安田

でしょう? お店の人もガッカリしちゃうじゃないですか。最高の状態で味わってもらうために、お店の人は必死で準備しているわけで。だから私も、最高の食事を楽しむためには、お腹を空かせていくとか、同じジャンルのものは数日食べないとかの努力はすべきだなと。


スギタ

そう考えると四毒も、普段うまく節制することで、たまに摂ったときのきらめきが、めちゃくちゃ増すのかもしれないですね。たまに食べるならコンビニスイーツじゃなくて、ちゃんとしたパティスリーで、とかね。

安田

なるほど。普段の節制が、ご馳走を味わうための最高の「準備」になる、と。素晴らしい結論ですね。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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