第81回 ライバルか仲間か、仁義なき縄張り意識

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第81回 ライバルか仲間か、仁義なき縄張り意識

安田

飲食業界で働く方々って、同業者に対してどういう感情を持っているんです? 仲間なのか、あるいはライバル意識なのか。


スギタ

それで言うと、同じ飲食業でも違いがあるんですよね。ケーキ屋に関して言えば、業界の中でもライバル意識は強い方だと思います。お互いにバチバチ火花を散らしているような。

安田

へえ〜業種によって違うんですね。レストランとかラーメン屋さんみたいな、ある意味そこら中にあるような業態だと、そこまでライバルを意識しないものなのでしょうか。


スギタ

食事に関しては、「今日は中華、明日はイタリアン」みたいに、お客さんが色々なお店を回遊するでしょう? そういう意味では、そもそも毎回自分の店に来てもらうって不可能なんですよ。

安田

ああ、なるほど。でもケーキ屋さんはそもそも数が少ないし、「ケーキを食べたい」と思った時に一番に思い浮かべてもらえないといけませんもんね。


スギタ

仰るとおりです。結果ケーキ屋さんは非常に強い「縄張り意識」が生まれる。特に僕より上の世代の先輩方はすごかったですよ(笑)。近くに新しい店を出そうものなら、口も利かない、目も合わせないのが当たり前なんていう。

安田

は〜、すごい。それほど露骨な反応をされるものなんですね。


スギタ

ひどいケースだと、取引のある業者さんに「あそこの店に卸すならうちは今後一切取引しないから」と圧力をかけるという話も聞いたことがあります。さすがに今の時代はそこまでではないと思いますが、一昔前まではそういう世界でしたね。

安田

なるほどなぁ。ちなみにその「縄張り」というのは、具体的にどれくらいの距離を指すんですか? 「半径〇キロ以内は出店NG」みたいな暗黙のルールがあるとか。


スギタ

明確な距離はないですが、同じ町内はもちろん、たとえ少し離れていても同じ道路沿いに出店しただけで、もう敵認定です(笑)。僕も最初はそういう先輩たちを見て、「ちょっと器が小さいんじゃないか」なんて思っていたんですけど。

安田

ん? 最初はということは、今はその感覚が理解できるんですか?


スギタ

今では痛いほどわかりますね(笑)。「ケーキを買う」という行為は、先ほども言ったように「食事に行く」のとはだいぶ意味合いが違う。「まぁ適当に見つけたケーキ屋でいいか」とはなかなかならないので。

安田

確かに。どちらかといえばいつも同じ店に行きますよね。そうか、そういう意味では「ファン」を作っていく必要があるわけですね。


スギタ

仰るとおりです。逆に言えば、別の店のファンになられてしまったら、もうウチには来てくれなくなってしまう。その恐怖心が強い縄張り意識につながっているんでしょう。

安田

結果、スギタさん自身も縄張り意識を持つに至った、と(笑)。


スギタ

ええ(笑)。それに、僕も20年もこの街でやっていて、同業者とのつながりも深まっていくわけですよ。そうなると尚更裏切るわけにはいかない。仲良しの人の店の近くに出店なんてできませんよ。

安田

ふ〜む、若い頃のスギタさんだったら、かまわず出店していた気もしますが(笑)。そういえば今回、社員さんのお店を東広島に出されましたよね。それもそういった配慮があったわけですか。

スギタ

ああ、それはありましたね。広島市内でも物件を探してはいたんですが、「ここは〇〇さんのお店の近くすぎるからやめておこう」と見送った場所がいくつもあります。これまで築いてきた人間関係にヒビが入るようなことはしたくないですから。

安田

なるほど。ちなみに今のスギタさんのお店を開くときはどうだったんですか? 周囲に競合店もあったとお聞きした気がしますが。


スギタ

僕の場合は「もともと父の店があった場所に後から周りのお店ができた」という経緯なので、そこに戻って店を再開することに遠慮はありませんでしたね。ただ、僕がオープンした後にも、近所に3店舗ほど新しいケーキ屋さんができたんですよ。

安田

おお、それはまさに縄張りに後から入ってきた形ですね。その方たちとは、やはり距離を置いて?

スギタ

いや、今までの話はなんだったんだと言われそうですが、実はすごく仲良しで(笑)。僕より年下の方たちですが、相談に乗ったり、逆に「材料が足りなくなったんで貸してください!」なんて助け合ったりもしています。

安田

なるほど、なんともスギタさんらしいですね(笑)。

スギタ

本当はもっとライバル意識を持つべきなのかもしれませんけどね(笑)。でもそこも考え方で、狭い範囲にケーキ屋さんがたくさんあると、「ケーキと言えばあの辺りだよね」みたいなブランディングにもなっていくでしょうし。

安田

ああ、確かに。うちの近所に「もんじゃ通り」っていうのがあってもんじゃ焼き屋さんが集まっているんです。お店が集まることによって、それを食べたい人がたくさん来る。

スギタ

そうそう、そういう効果もあるんですよね。なので俯瞰的に見れば、同業だからとあまり目くじらを立てる必要もないのかもしれません。仲間として共存できるなら、それに越したことはないと思うので。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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