地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第81回 ライバルか仲間か、仁義なき縄張り意識

仰るとおりです。結果ケーキ屋さんは非常に強い「縄張り意識」が生まれる。特に僕より上の世代の先輩方はすごかったですよ(笑)。近くに新しい店を出そうものなら、口も利かない、目も合わせないのが当たり前なんていう。

ひどいケースだと、取引のある業者さんに「あそこの店に卸すならうちは今後一切取引しないから」と圧力をかけるという話も聞いたことがあります。さすがに今の時代はそこまでではないと思いますが、一昔前まではそういう世界でしたね。

明確な距離はないですが、同じ町内はもちろん、たとえ少し離れていても同じ道路沿いに出店しただけで、もう敵認定です(笑)。僕も最初はそういう先輩たちを見て、「ちょっと器が小さいんじゃないか」なんて思っていたんですけど。

ああ、それはありましたね。広島市内でも物件を探してはいたんですが、「ここは〇〇さんのお店の近くすぎるからやめておこう」と見送った場所がいくつもあります。これまで築いてきた人間関係にヒビが入るようなことはしたくないですから。

なるほど。ちなみに今のスギタさんのお店を開くときはどうだったんですか? 周囲に競合店もあったとお聞きした気がしますが。

僕の場合は「もともと父の店があった場所に後から周りのお店ができた」という経緯なので、そこに戻って店を再開することに遠慮はありませんでしたね。ただ、僕がオープンした後にも、近所に3店舗ほど新しいケーキ屋さんができたんですよ。

いや、今までの話はなんだったんだと言われそうですが、実はすごく仲良しで(笑)。僕より年下の方たちですが、相談に乗ったり、逆に「材料が足りなくなったんで貸してください!」なんて助け合ったりもしています。

本当はもっとライバル意識を持つべきなのかもしれませんけどね(笑)。でもそこも考え方で、狭い範囲にケーキ屋さんがたくさんあると、「ケーキと言えばあの辺りだよね」みたいなブランディングにもなっていくでしょうし。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。


















