地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第88回 食を楽しむことは「冒涜」か「尊重」か?

今日は我々の共通点でもある「食を楽しむ」ということについてお聞きしたいなと。これほどまでに食に手をかけるのは人間ぐらいですよね。わざわざキレイに盛り付けたり、何時間もかけて調理したり。自然界の動物は、基本的に食材そのままで食べるじゃないですか。

笑。でも私、時々ふと思うんですよ。この「食を楽しむ」という行為は、もしかして「自然への冒涜」なんじゃないか、と。あるいは逆に、できるだけ美味しくいただくということが、その食材に対する「最大限の尊重」とも考えられる。果たしてどっちなのかなと。

僕は完全に「尊重派」ですね。自然の恵みを人間の知恵を絞って美味しく食べるのは、自然に対する敬意だと思うんです。逆に大量生産・大量消費で、食べ物が大量に廃棄されているのを見ると、それこそ悲しいし、自然にとってよくないことだなと。

ええ。ただケーキ屋という職業柄、別の悩みもあって。果物って、そのままで完璧に美味しいじゃないですか。あんなに甘くて美味しいものを、あえてタルト生地と一緒に焼き込んだり、プリンに加工したりするわけです。その時、ふと「これ、本当に元の状態より美味しくなってるかな?」と考えてしまうんです。

なるほどなぁ。でも私はもう少し根源的な疑問があって。自然にある食べ物というのは、神様が「あなたはこれを食べなさい」と用意してくれたものだと思うんです。果物にしろ野菜にしろ、あるいは魚や動物にしろ、人間がイチから作り出したものではないわけで。

なるほど……それは深いですね。例えば穀物で考えてみると、お米は炊けばそのまま美味しく食べられる、最高の穀物です。でもパンはどうかというと、そのままでは食べられない。だから粉にして加工する。これは生きるための人間の「知恵と工夫」だと思うんです。

なるほど。米や小麦といえば、面白い話があって。それらは地球上で「最も成功した植物」だと言われているんです。人間に食料にされたからこそ、人間が「畑」という形で彼らの生息域を世界中に増やしてくれた、という。

一方で皮肉なことに、人間は「農業」を始めてから不幸になった、という説もあって。狩猟採集時代は、狩り以外の時間はほとんど寝ていられたんですよね。でも農業は、植物の手入れで一日中仕事が必要になってしまった。

そうです。そこで武器が作られ、テリトリーができ、人間同士の争いが始まった。それまでの人間は、今のように殺し合いはしていなかったそうですよ。縄文時代の骨にはない刀傷が、農業が始まった弥生時代の骨には無数に残っている。豊かさが人間を不幸にし、敵対させたとも言える。

ああ、確かにね。塩コショウだけで焼くシンプルな料理が美味しく感じるのも、心のどこかに原始の記憶が残っているからかもしれませんね。服は3〜4着でいいというミニマリズムのような価値観も出てきましたし、今後は食もだんだん素朴になっていくのかもしれない。

世代が交代することで、価値観も変わっていくんでしょうね。でも僕はやっぱりこの「食を楽しむ」ことから離れられない気がします。量はもうそこまで食べませんけど、死ぬまでバリエーション豊かに色々食べたいですね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。


















