第93回 形を変えて生き残る「おせち文化」の未来

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第93回 形を変えて生き残る「おせち文化」の未来

安田

お正月をだいぶ過ぎましたけど、今日はおせち事情について聞いてみたいんです。スギタさんのお家では毎年どのようなものを食べているんでしょう?


スギタ

うちは奥さんが毎年必ず作ってくれるんですが、品数はそんなに多くないですね。まずは子どもたちが大好きな栗きんとん。全部を栗で作っちゃうと高くつくので、芋でベースを作って中に栗の甘露煮を入れてます。

安田

へ〜、すごい。自家製で作るんですね。他にも「これだけは外せない」という定番メニューはあるんですか?


スギタ

そうですね。必ず作るのは田作りと、あとはやっぱり煮しめですね。それからお雑煮も毎年妻が作ってくれますね。ただ、うちは妻の実家に遊びに行く恒例行事がありまして、そこでお義母さんがいろいろと用意してくれているんですよ。だから家ではコンパクトに食べて、実家で豪華にいただくという流れです(笑)。

安田

いいバランスですね(笑)。ちなみに、スギタさんご自身はキッチンに立っておせちを作ったりしないんですか?


スギタ

僕は全然作らないですね(笑)。というのも、僕ら洋菓子店の人間にとって、12月31日というのは一年で最も忙しい日の一つなんです。だから家に帰ってから細かいおせちを作っている余裕は全くなくて。

安田

へぇ。クリスマスが終わったら落ち着くのかと思ってましたけど、違うんですか。


スギタ

クリスマスが終わると、今度はお客さんたちが年末年始用にケーキやお菓子をめちゃくちゃ買われるんです。今のケーキ屋さんって、クリスマス後も年末ギリギリまでずっとピークが続くんですよ。

安田

ああ、そうか。お正月に家族や親戚が集まるから、その手土産や団らん用としての需要があるわけですね。


スギタ

そうなんです。もし三が日に店を開ければ、そこでも結構な売り上げが立つんですよ。ただ、うちは従業員の休みのことも考えて、何年か前からお正月は休みに変えたんです。開ければ売れるのはわかっているので、経営者としてはやりたい気持ちと葛藤することもあるんですけど(笑)。

安田

経営者としての実利と、従業員の満足度とのバランスですね。でもそのおかげで、スギタさんもお正月はゆっくり過ごせているわけじゃないですか。


スギタ

ええ、年末までしっかり働いて、お正月はゆっくりさせてもらっています。安田さんのお宅はどうですか?

安田

うちは毎年「おせちセット」を買ってるんです。最近は百貨店なんかがいろんな名店とコラボしたものもあって、選ぶのが結構楽しいんですよ。最近は有名料亭だけじゃなくて、個人店やビストロなんかも「限定〇食」みたいな形でおせちを出していたり。


スギタ

増えましたよね。家では作れないものも入っていたりして、そういうプロの味を楽しめるのはいいなと思います。

安田

そうなんですよ。ただ、以前「和洋中」全部入った三段重を買ったことがあるんですが、あれは全てが中途半端に感じてしまって一回でやめました(笑)。やっぱりお正月は「和」に特化して集中した方が満足度が高いなと。


スギタ

なるほど(笑)。確かにあれこれ手を出すより、好きなものに絞った方が満足度は高いですよね。僕の場合、ワインが好きなので、本当ならワインに合うローストビーフなんかをつまみたいところなんですよ。子どもたちも、あまりガチガチの「和」のものは食べませんしね。

安田

ああ、確かに子どもはそうですよね。煮しめや数の子よりも、わかりやすいお肉料理の方が喜びます。

スギタ

そうなんです。だから今年は自宅でローストビーフを作りましたよ。牛のランプ、お尻のところの赤身を1キロ弱使って、大きな塊のまま低温調理するんです。

安田

低温調理ということは、お湯に浸けてじっくり火を通す方法ですよね。専用の機械を使うんですか?


スギタ

そうです。60度のお湯で2時間半ほどにセットして、真空パックにしたお肉を沈めておくだけです。時間が来たら取り出して、常温で少し休ませてから、最後に表面をフライパンで焼く。そうすると切った時にすごく綺麗なロゼ色で、ジューシーに仕上がるんですよ。

安田

なるほど、最後に焼くんですね。最初に表面を焼いて肉汁を閉じ込めるという説もありますが、スギタさんは後焼き派ですか。

スギタ

僕は最後に焼く派ですね。食べる直前に焼いてすぐ切った方が、やっぱり香ばしい香りが立って美味しい気がします。低温調理器を使うと本当に失敗がないので楽ですよ。ボニークみたいな本格的なものじゃないですけど、十分機能しています。

安田

へぇ、それなら家庭でも導入しやすそうですね。大きな塊肉をオーブンで焼こうとすると、火入れが難しくて失敗しやすいじゃないですか。

スギタ

そうなんです。家庭用のオーブンレンジだと、火力の強さや庫内の広さの問題で、大きな肉に均一に火を通すのって難しいんですよ。その点、低温調理なら温度管理さえできれば放置でいいので、その間に他の家事や用事も済ませられますし。

安田

2時間半ほったらかしにできるのは、忙しい年末には大きいですね。しかも塊肉だとご馳走感もあるから、お正月向きなのかもしれない。

スギタ

昔ながらの形式ばったおせちだと、2日目、3日目にはもう誰も手を付けなくなって「食べるものないよ」ってなりますからね(笑)。でも最近は洋風や中華風などバリエーションも増えて進化していますし、おせちという文化自体はなくならずに、形を変えて残っていくんじゃないかなと思います。

安田

そうですね。10万円もするような高級おせちが即完売する時代ですし、形を変えながらも「お正月に特別なものを食べる」という文化は発展していきそうです。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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