第140回 エンディングビジネスの未来はどうなる?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第140回 エンディングビジネスの未来はどうなる?

安田
以前にも対談でお聞きしましたが、今「火葬式」をする人がものすごく増えているとか。

鈴木
火葬式は「直葬」とも言われるお式のことですが、確かにお通夜や告別式をやらず、火葬だけですませる方が増えている印象です。
安田
火葬場にお坊さんが呼ばれて、5分ほど念仏を唱えて終わり。さらに「戒名も一番安いもので」という人も増えているらしくて。それってどうしてなんでしょうね?

鈴木
やはり一番の理由としては、遺族…ほとんどの場合、子どもに負担を負わせたくないからじゃないですか。
安田
となると、今後はもうご葬儀にはどんどんお金をかけなくなっていくんでしょうか。現場で見ていて、鈴木さんはどう思われます?

鈴木
2極化していくんじゃないかなと。「お式にお金をかける意味」を理解している人はこれまで通りお金をかけるでしょうし、そうじゃない人は「もっと安いプランでもいい」となると思います。ただ、今まで以上にお金をかけるようになることはないでしょうね。
安田
なるほど。ちなみに故人が「葬式にお金をかけなくていい」「火葬式で十分、墓もいらない」などと遺言を残している場合も多いと聞きました。

鈴木
多いですね。とは言え、実際はその通りにならないことの方が多いんですけどね。
安田
え、そうなんですか! 遺言で残しているのに?

鈴木
ええ。葬儀っていうのは遺された人のための儀式なので。たとえ故人が「直葬で」と言っていたとしても、「いやいや、そうは言ってもやっぱりちゃんと送りたい」と考える遺族は結構多いんです。
安田
あぁ、なんとなくわかる気がします。自分にとって特に大切な家族とのお別れの場だったら、立派な式をやって送り出してあげたいと思うでしょうし。

鈴木
そうそう。ただそこで1つ言えるのが、「お金をかけるところ」が変わってくるかもしれないということで。戒名やご葬儀にはそんなにお金をかけず、お別れ会を盛大にやる、なんてこともできるじゃないですか。
安田
確かに。今までの葬儀の流れとはちょっと違う、故人の新たな送り方を考えたっていいわけか。

鈴木
仰るとおりです。とは言え、そういった「今までのしきたり」から逸脱したようなことって、遺族側から言い出すのって難しいんです。だから僕らが現場で対話を重ねつつ、「それだったらこういう送り方はどうですか?」と提案していくべきなのかなと思いますね。
安田
素晴らしいですね。今後は、厳かなご葬儀だけでなく、ちょっと笑いもあるようなお別れ会など、「新たな送り方」が増えてくるのかもしれないですね。

鈴木
ええ。それを僕ら側が率先してやっていくべきなんでしょう。
安田
ちなみに人が亡くなることで絡んでくるビジネスは「葬儀」「お墓」「お坊さん」の3つがありますが、鈴木さんはこの3つのうちどれが最初になくなると思います?

鈴木
うーん…徐々に縮小していくのは「お墓」かなって思いますね。最近は「合祀(ごうし)」も増えていますし。
安田
墓じまいする人も多いですもんね。まあこのまま少子化が進めば、1人でいくつもの先祖の墓参りをしなくてはいけなくなるし、それはさすがに現実的じゃない。でもお墓が減ると、お坊さんの仕事も減っていきますよね?

鈴木
そうですね。四十九日や何回忌といった定期的な儀式も、お墓あってのものでしたから。檀家さんが減ることで、ビジネスとして成り立たなくなっているお坊さんも実際ありますよ。
安田
やはりそうですか。葬儀はどうなりそうですか?

鈴木
より「公共事業」に近くなるんじゃないかなと考えています。「葬儀屋さん」がなくなってしまっても、結局は「誰か」が絶対やらなくてはならないことなので。
安田
なるほど。仕事自体はなくならないけれど、「誰がやるか」は変わってくる可能性があるというわけですね。でもそれこそ、異業種から葬儀ビジネスに参入する人も増えていくんじゃないですか?

鈴木
いや〜、そうでもないと思いますよ。参入してみたらすぐわかるけど、実際めちゃくちゃ大変ですし、そんなに儲かる事業ではありませんから(笑)。
安田
笑。ちなみに鈴木さんは、今後、ご葬儀も含めた「エンディングビジネス」はどう変化していくと考えていらっしゃいますか?

鈴木
「葬式だけ」を考えればいいわけではなく、「老いていくことによる不安」も解決していくべきなんじゃないかなと思います。今ってどうしても「葬儀」という1つの点でしか考えられていないじゃないですか。
安田
ふむふむ。つまり、亡くなった時だけでなく、その前から関わっていくと。

鈴木
前もそうだし、後もですよね。亡くなる前、亡くなった時、亡くなった後。僕らが関われる「点」はまだいっぱいあるんですよ。そういう俯瞰的な目で見た「人生のエンディング」をサポートしていきたいなと思っています。
安田
なるほどなぁ。また新たなビジネスが生まれていきそうですね!

対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

感想・著者への質問はこちらから