泉一也の『日本人の取扱説明書』第29回「妖怪の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第29回「妖怪の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

子供に大人氣の「妖怪ウォッチ」を知っているだろうか。引きこもるのはひきコウモリという妖怪のせいであり、場の雰囲気が悪いのはドンヨリーヌという妖怪がいるからだと、嫌なことや問題を妖怪のせいにする。その妖怪たちは悪意で人を困らせているのではなく、その裏に深い事情があったりするのだ。その事情を主人公が解き明かし、妖怪と友達になっていく。この良くできた話に子供達は虜になっているのだが、このストーリーに日本らしさを感じるのは私だけではないだろう。

困らせる問題は「見えない存在」が起こしていて、その見えない何かも、困った事情を持っている。我々人間は困る動物なのだが、困った時に「誰それが悪い!」と犯人探しをしてその指を見える存在に向けたがる。そうすると喧嘩になるか、仲間はずれが出てくる。後ろ指を刺されるという言葉があるように。日本ではそういった喧嘩や仲間はずれが起こらないように、妖怪という存在を作り、その妖怪のせいにした。そして妖怪にも事情があるという物語を持たせ、悪者がどこにもいないといった世界観をつくったのだ。

日本文化を生涯かけて研究していたラフカディオハーン(日本名、小泉八雲)は、「妖怪物語の口伝」が日本文化に大きな影響を与えていると妻セツとの会話から発見し、怪談(Kaidan)を執筆した。耳なし芳一や雪女といった物語が我々の身近にあるのは、小泉八雲のお陰である。小泉八雲は日本人が脈々と継承してきた「見えない存在」の価値に氣づいたのだろう。キリスト教に魔女狩りがあったが、日本の神道や仏教にはそれがなかったのは、日本では魔女的存在は妖怪化し「見えない存在」だったからかもしれない。

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