泉一也の『日本人の取扱説明書』第61回「浪費家の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第61回「浪費家の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

「もったいない」という言葉があるというのは、日本人が本来は浪費家であることを意味している。質素倹約という言葉から、重厚で正しそうな感じを受けるのは、浪費癖を知っていて「これじゃいかん」という戒め的な罪悪感が心の奥にあるからだ。

浪費家かどうかは、ティッシュの消費でわかる。日本人は世界一ティッシュを使っている。一人当たり年間約17箱、2位の米国の3倍らしい。これほどエコだなんだと言われているのに、日常に使う紙を使いまくっているのである。道理でドラッグストアやスーパーではティッシュを安売りセールの客寄せに利用しているわけだ。

浪費家が多いということは、それだけ捨てる物も多い。よって捨てるものを回収して再利用するという商売が成り立つ。みんなが質素倹約だと再利用ビジネスは成り立たない。江戸時代はリサイクルの仕組みが世界一あったと言われているが、それは浪費家所以なのだ。日本人はエコでも質素倹約でもなく、浪費癖があるからリサイクルビジネスが成り立った。私の故郷の神戸でも、ゴミで大きな島が2つもでき、博覧会まで開いて大いに繁栄した。今ではそこに空港までできている。

最近ではエコブームに乗っかったマーケティングのお陰で、古い家電を捨てて新しい電化製品を購入する。浪費家が浪費するいい口実がエコなのである。リサイクルが成り立つのは浪費家とセット。つまり浪費家側にいくのか、リサイクル側にいくのかの違いであり、陰陽のごとくお互いが補完しあって成立している。

日本では流行りが生まれてもすぐに廃れる。ブームが来るがすぐに去る。使い捨て的なブームが好きである。ゴシップにお笑いに商品に流行るがすぐに飽きて忘れる。次々に新しいものを求めていくから新商品が生まれるサイクルが早く、廃れるのも早い。日本が内需大国であり、ガラパゴス化するのは、浪費家の国であるからだ。

そんな浪費家の強みを活かさないと「もったいない」。浪費流の本家として、世界の消費とリサイクルをひっぱっていけなければならない。そしてグローバルな経済繁栄とエコロジーを促進するのだ。

まず浪費したらいいのはお勉強である。使い捨ての勉強をするのだ。お勉強というと崇高で価値あるものと思っている。だから勉強の成果は何か!?などと、しょうもない話が出てくる。成果などどうでもよく、ティッシュを使いまくるように、学びまくるのだ。ちょっと勉強して面白くなかったら捨てる。教科書も本も先生も学校も。もっとティッシュを使うがごとくお氣軽に学ぶのである。

浪費的な学習をしていると何がいいかというと、評価のためとか将来の自分のためとかではなく、氣持ちいいから勉強することになる。そのうちその氣持ちよさを、何か形に変えたくなる。つまり自分なりのアウトプットをしたくなるのだ。そのアウトプットを誰かに伝えて褒められたい、自慢したいという動機から新しい価値が生まれ、さらにその価値を浪費する人が生まれる。こうして経済が循環していくのだ。

このコラムも読み捨てたらいいのである。下線を引いたり蛍光ペンでなぞったりしない。ただ、読み捨てるのである。ティシュを使うように。そうこうしているうちに、お氣軽な発想から鼻セレブのような商品が生まれて世界中で使われ出す。日本人の「浪費」という強みを伸ばせば、この国も世界も活性化していくのだ。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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