泉一也の『日本人の取扱説明書』第90回「縁側の国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
「ぽたぽた焼」を知っているだろうか。キャラクターのお婆さんが醸し出す「和やかさ」。ほんわりとした安心とどこか懐かしさを感じる。おそらく日本人のDNAに刻まれた「温かさ」と繋がるのだろう。
キャラクターには描かれてないが、お婆さんが縁側に座っているシーンがイメージできる。そういえば、縁側に座るという風景が日本から消えかかっていないだろうか。
高度経済成長期、都市部の人口が急激に増えたため、アパート、団地、マンションといった多世帯が同居できる共同住居が建築ラッシュとなった。そして現在はタワーマンションが林立している。都市圏ではすでに共同住宅が世帯の半数を越えた。
アパートでは隣近所の生活音が聞こえ、長屋風情があったが、団地やマンションとなると共同住宅とは名ばかりで、ほぼ孤立住宅と化している。エレベーターでご近所さんと出会っても、目も合わさず挨拶すらない。
子供を通じた世帯間の繋がりも少子化で減り、遂には孤独死までが見られるようになった。
ぽたぽた焼のお婆さんと孤独死はま逆の世界。人と人の間にできた生活の壁は、日本に大きな影響を与えている。日本社会に孤立と孤独をもたらしているのだ。それもこれも縁側がなくなったからだ。
日本人は靴を脱いで家にあがるので、自然と家と外の敷居が高くなる。だからその間に縁側がある。その縁側というフチで、人と人が交流する。縁には「えん」と「ふち」と二つの読み方があるが、まさに家のフチで人とのエンが生まれていた。
日本は縁側文化を長い年月を経て築いたが、経済文明で一氣に壊してしまった。経済的に豊かになっても心は満たされない。これが三十年の停滞につながり、縁側でほんわりと話していた時間が、ネットの世界で中傷や攻撃といったdisり時間に変わった。
孤立と孤独とdisりを壊すなら、縁側を取り戻せばいい。縁側的な場、つまり敷居が低くてあったかい場をそこかしこに作ればよい。そしてぽたぽたお婆さん的な感性を大切にすればいい。企業でいうならぽたぽたお婆さん人材を採用し、育成すればいいのだ。採用基準と人事評価に「安心感」と「懐かしさ」を入れれば簡単に済む。効率と結果が好きなマンション人材から「そういう人材は成果を出せるの?」とコンクリートのように冷たく重い言葉を投げつけられるが。
安心感と懐かしさの場づくりが、家にも地域にも学校にも企業にも渇望されている。私の場活予想では、マンションは急激に売れなくなるだろう。そしてマンション人材も市場価値が下がるだろう。
これからの日本は、縁側事業が儲かり、縁側人材に人氣が集まってくる。
まあ、そんな感じ。さあて、お茶でもいれて一服しようか。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。