泉一也の『日本人の取扱説明書』第108回「伝の国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
日本人は概してプレゼンが下手くそである。
ユーモアがなく単調。述語がなかなか出てこず何が言いたいのかわかるまで時間がかかる。「まあ、大体わかるよね」と説明をすっとばしたり、逆に馬鹿丁寧に説明をダラダラと続けたりする。下手くそばかりがはびこる日本では、説明が少しうまいぐらいで価値になる。
「では、なぜ、・・・・なのか?」
という問いかけ言葉を多用し、思考のプロセスを一緒に辿るように話を展開していく池上彰さんがTVの人氣者であるのは、プレゼンのうまさ故である。
では、なぜ、日本人はプレゼンがうまくないのか?(池上彰風)
まず人は何のために伝えるのか。相手に何かをして欲しいと「要望」し、相手と親しくなるために「好意」を示し、何かオカシイといった「違和感」を発し、このままだとヤバイと「危険」を伝える。これらは生存上必須なことであるが、日本人は要望をあまりいわず、好意は隠し、違和感は我慢し、危険を発しない。
小・中学校の授業でプレゼンテーションは最近になって増えてはきたが、まだまだおまけ程度のところがほとんど。などと偉そうに言う私もプレゼンは下手くその部類であったが(今も大してであるが・・)、あることを発見してから一氣に上達した。
その発見をここでお伝えしよう。
日本人は要望、好意、違和感、危険を言外で察し合う。「無言・・色っぽいね」ってやつである。わざわざ言葉にしてわかりやすくロジカルに伝えるのは効率が悪い。あうんでわかってくれたら楽である。さらに全部をモロ出しするのはカッコ悪い。ボン・キュ・ボーンはセクシーであるが色っぽくない。このカッコ悪さを野暮という。野暮ったい人は嫌われるのが日本である。
では日本人にあった野暮ではないプレゼンはあるのだろうか。参考になるのが、寅さんである。男はつらいよの主人公、車寅次郎。よくしゃべるキャラであるが、野暮ったくない(時にうざいが・・)。「おいジジイ、それをいっちゃおしめえよ」に代表されるようにおしめえとは何が終わりなのかよくわからない。寅さんの話し方はロジカルではない。これを「口上」という。言い回しというやつだ。
「物の始まりが一ならば国の始まりが大和の国、島の始まりが淡路島、泥棒の始まりが石川の五右衛門なら、助平の始まりがこのオジサンっての。笑っちゃいけないよ、助平ってわかるんだから目つきみりゃ」
内容はてんで一貫性がなく、ロジカルでもないが、リズム感がある。このリズムで言外のメッセージを伝わりやすくしているのだ。日本人は口上的に話せばいいのだが、そんな話し方を教える授業も研修もない。
八百屋に豆腐屋に魚屋のオヤジが発する口上を自然と学べる環境が身近にあったが、スーパーやコンビニになって消えていった。マニュアル通り喋る人ばかりである。ロジカルなマニュアルがベースなので、苦手なロジカル・プレゼンテーションにシフトしたのだ(英語ばっか)。
説明責任を果たさないといけないぞとかアカウン何々とか野暮ったく言われるので、仕方なくプレゼンするわけだが、これは説明する側の責任ばかり追求され、聞く側の責任はほったらかし。全くバランスを欠いている。これではいつまでたってもプレゼンはうまくならない。リズムはお互いが合いの手を入れながら、一緒に生み出すものだからだ。
ここまでロジカルに説明したんだから口上の価値、わっかるかなぁ。
わかんねぇだろうなぁ。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。
1件のコメントがあります
よくわかります。話し手は責任が重いため、自由に振舞うことができず、聞き手は聞くだけなので退屈しやすく、良いプレゼンにならないですよね、、。この前泉さんが教えてくれた”落語家の話し方”を実践したことで、私のプレゼンテーションは良くなったと思います。落語家の話し方はNVCがたくさん含まれていて、聞き手にアクションをとらせることでお互いに活気し合う場(まさに場活)ができている→良いプレゼンテーションになる。これが広まればいいですね。