変と不変の取説 第80回「リスクヘッジができない理由」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第80回「リスクヘッジができない理由」

前回、第79回は「お金と欲しいの関係

安田

オリンピックはやることを前提に動いてますね。

はい。1年間延長っていう話です。

安田

でも「やれないんじゃないか」と思ってる人のほうが多い。

「現実的には無理だろう」と思ってるでしょうね。

安田

なぜ中止にしないんですか?やること前提でしか話が進まないのが不思議。

いろんな利権が絡んでるから。

安田

やっぱり利権ですか。

半分は利権がらみ。残りの半分は観客とか期待してる人たちの思い。

安田

なるほど。

その両方を背負って「東京に決まりました!」となったので。もう身動きとれない感じがします。

安田

イベントって中止になる可能性があるじゃないですか。何が起こるかわからないので。

そうですね。

安田

だから「中止になった場合はこうします」ということを考えておく。

普通はそうですね。

安田

想定できる問題なので。地震も起こるし。

はい。日本は自然災害の多い国ですから。

安田

にも関わらず、中止になった場合の対応を誰も考えてないように見える。

考えてないと思います。

安田

やっぱ考えてないですか。

そういうことを言い出そうものなら「敗戦を前提に考えるな!」って叩かれるので。

安田

え!リスクヘッジしちゃいけないんですか?

戦前の大本営と同じですよ。

安田

戦前の大本営?

ネガティブなことへのリスクマネジメントを「発言できない空気」がある。

安田

ネガティブなことを想定しておくのが、リスクマネジメントじゃないですか。

そのとおりです。

安田

ということは「日本はリスクマネジメントができないお国柄」ってことですか?

日本には「そういうことを言うと不吉だ」とか「言ったようになるんちゃうか」みたいな空気があって。

安田

言霊(ことだま)みたいな。

はい。だから「そんなこと想定するなよ」「考えるなよ」って空気になりやすい。

安田

昔からそうなんですか?

昔から日本人の特性でそういうところがある。たとえば結婚式で「切る」という言葉を使ったらダメとか。「言ったらほんまになるで」「不吉やないか」という禁句。

安田

なるほど。じゃあ官僚システムの問題というより日本人の問題ってことですね。

私はそうだと思います。

安田

でも、それだとリスクヘッジができないですよ。たとえば原発も「大丈夫」って言ってたけど大丈夫じゃなかった。

そうですね。

安田

再稼働するにあたって「大丈夫なようにリスクヘッジします」って言ってますけど。

言ってますけど、本当に放射能が漏れて「その地域の人が全員避難しなくちゃいけない」という想定はしてないと思う。

安田

想定してないんですか?リスクヘッジするのに。

してないでしょうね。

安田

なんと!

地震の時もそうでしたけど「危機になってから考える」という前提。

安田

なってから考えてもしょうがないじゃないですか。

日本は前例主義なので。「これまでにあった規模」のレベルは考えるんです。でもそれ以上の規模は考えない。

安田

え!考えないんですか?

そうなんですよ。たとえば南海地震も「昔の文献を見ていたらこういう状況だったので、この範囲で考えます」という対応。

安田

それ以上のことは起きないというのが前提?

そういうことです。

安田

それってリスクヘッジになってないですよね。

なってないですね(笑)リスクは想定外ですからね。

安田

ですよね。

はい。想定内リスクだけを考えてる。

安田

なんか大企業の経営と似てますね。

まったく同じ構造です。

安田

やっぱり。

あえてそういうリスクを設定しない。想定外のリスクが起こりそうなことには手を触れない。

安田

だから無難な戦略しか出てこない。

はい。想定外のリスクに対してリスクヘッジをすることすら嫌なんです。

安田

「リスクヘッジをしないためにリスクを背負わない」ってことですか?

おっしゃるとおり。そういうことです。

安田

じゃあなぜ原発のようなリスキーな事業に手を出すんですか?

オリンピックと同じですね。利権と期待でがんじがらめになってる。

安田

原発が期待でがんじがらめ?どういう意味ですか。

安田さんは会社をつくるとき「つぶれたときのリスク」を考えてつくりましたか?

安田

いや、考えてなかったです。

ですよね。「マイナスのことなんて考えたら何もできない」って思ったでしょ?

安田

確かに。

それと同じ。期待で不安を押さえつけてしまう。

安田

そんなことが出来るなら、もっとたくさんの人が起業しそうなものですけど。

大勢だと出来るんですよ。個々人はゼロになるのが怖いから不安が先にくる。

安田

起業なんて元々ゼロですけどね。

そう思える人が起業するんです。普通の人は今がゼロだとは思えないので。

安田

なるほど。でもゼロになる可能性は誰にでもありますよ。

十分あります。地震もそうだし今回のコロナもそう。だけどそれを前提には動けない。

安田

だからオリンピックがゼロになることも想定しない。

さらに延期というオプションすら考えてないと思う。

安田

後で困るのは自分たちなのに。

後で困るのは自分だと思ってないので。

安田

先送りにして他の人に対応させるわけですね。

はい。大企業の文化とまったく同じです。「今はそんなこと考えるな」という空気が蔓延してる。

安田

そのツケがどんどん未来に残されていくと。

もう払えないぐらいツケが貯まってます(笑)

安田

そのうち出入り禁止になりますね。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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