泉一也の『日本人の取扱説明書』第129回「無防備の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第129回「無防備の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

私の前に未知なる相手「X」が現れた。Xは肌の色、着ている服、喋る言葉、食べるモノと多くが違っていた。

「我々の常識は通じない!?」であれば、自分や家族に危害を加えるかも・・と念のために「武器」を手にした。

Xは武器を手にした私を見て、自分を守らねば・・と武器を手にした。

私は武器を手にしたXを見て「やっぱり危害を加える気か・・」と思い、威嚇のためXよりも強力な武器を装備した。

Xは重装した私を見て、攻撃をしてこないようにとさらに重装した。

私もXも距離をとっていたので、争うことはなかったが、それぞれの子供が偶然にも気性が荒く、領地を広げることが家族の幸せになるといった考えを持ったため、互いに衝突し、武器を使ってお互いを殺めてしまった。

孫たちは、親を殺した相手を憎み、さらに武装をした。「命がけで家族を守ろうとした、そんな立派な先祖が殺されたことを忘れてはならない」と、子孫に代々受け継がれていった。

このループを何百年、何千年と続けてみたら、地球全体の生物を滅ぼせるぐらいの武器を得てしまった。さらに毎年200兆円(2019年世界の総軍事費)かけて武装を続けている。

その最先端を走るのが米国である。200兆円の40%は米国で使われているが、そのお陰で世界大戦は抑止され、武器開発からインターネットをはじめとした新しい技術が生まれ、生活を豊かにしている。

そんな素晴らしい米国では、およそ国民の4割が銃を所持しているか、所持している家庭に住んでいる。そして年間1万人以上がその銃で命を失い、学校ではロックダウン・ドリル(銃撃避難訓練)が防災訓練よりも頻繁に実施されている。

「自分と違う存在を警戒し、防衛のために武器を装備した」がスタートとなり、その警戒のループを回し続けた結果である。

そのループの先に生まれた究極兵器が核兵器。膨大な人と時間とお金と資源を費やして開発された、地球を破滅するパワーを持つ兵器。そんな兵器を2度も経験したのが日本であり、歴史上日本しかない。

日本は明治になって開国したことで、「自分と違う存在を警戒し、防衛のために武器を装備した」結果、究極兵器を2度も使われ、国が滅びるぐらいの負け戦をした。

占領国の圧力もあったが、その学びを生かして、日本は戦争を放棄し、戦力は不保持にし、交戦権を否認した。世界初の平和国家の誕生である。そうして、富国強兵から富国強商に舵を切ったわけだが、「兵」は米国に依存することになった。「自分と違う存在を警戒し、防衛のために武器を装備する」ではない「新しい平和の道」を作り出したわけではなかった。未完の平和である。

人類は、無防備で非暴力をスタートにした平和を生み出すことができるのだろうか。歴史を見ると、その命題を与えられている国が日本だろう。

「自分と違う存在を理解し、共創のための技術を習得する」をいっせいのうで!と70億人がスタートを切れば、そのウェーブは世界に広がり、新しい平和の道が拓かれるだろう。

ロジャースさんの「イノベーション普及学」によると、革新を起こすイノベーターは2.5%。世界で1億7千5百万人が賛同し行動を始めれば、イノベーションは起こる。あと、5千5百万人である。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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