泉一也の『日本人の取扱説明書』第99回「社会のない国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第99回「社会のない国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

日本財団が2019年に行った「18歳意識調査」というものがある。

インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、英国、米国、ドイツの17-19才各1000人を対象にした国・社会に対する意識を聞いたものである。そこに「社会課題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論しているか」という項目があるのだが、日本は極端に低い。

どれくらい低いかというと、インド(83.8%)、インドネシア(79.1%)、韓国(55.0%)、ベトナム(75.3%)、中国(87.7%)、英国(74.5%)、米国(68.4%)、ドイツ(73.1%)に対して、日本は27.2%なのだ。

詳細は下記のページを参照してほしい。
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2019/20191130-38555.html

日本人は社会を語らないのか語れないのか。いや、日本人には社会がないのではないか。小学生の頃、一番嫌いな教科が「社会」だった理由がここに見つかりそうである。

社会嫌いな私もやっと見つけた社会いや実社会の面白い先生がいる。竹田茂さんという日経ビジネスオンラインをプロデュースした人でもあるが、彼はいう。社会という言葉は明治時代に捏造されたものだ、日本には「世間」しかないと。(興味ある方は竹田茂さんのブログを↓)
https://42-54.jp/author/shigeru_takeda/

社会はなんとなく嘘くさい。虚構の世界に感じないだろうか。中学校の社会の教科書で「日本は民主主義だ」と勉強しても、その中学校は全然民主主義ではない。校則すら民主的に変えることができないという刑務所のようなところである。
社会は建前であり、世間が本音である。社会代表の総理大臣や官房長官の言葉は建前であり、世間代表のような顔をした野党の言葉は揚げ足とりか足を引っ張る言葉にあふれている。

平和の時代にはそれでいいというよりかそれがいい。虚構な建前と不満の本音を戦わせても一向に噛み合わないので、問題がおこらない。平行線でいると頭のいい官僚が最大公約数の案を出してくれるので、皆がまあまあイエスと言えるところに着地させてくれる。

これで日本人は社会を語らない理由がわかっただろう。虚構な建前と不満の本音の平行線はちっとも面白くない。最大公約数の無難な答えにはワクワクしない。日本の社会にはしびれるようなアイデアも、エキサイティングなビジョンもそもそもないのだ。だから日本の経営者にワクワクするビジョンを語ってくださいとか、しびれるようなアイデアがでる会議をしてくださいと言っても、無駄無駄無駄無駄―!なのである。

しかし、緊急事態に本音と建前だとえらいことになる。戦時中、日本は大本営が建前で動き、本音は抑圧されていたので、最大公約数どころか現実のリスクを直視できず、国が滅ぶレベルまで国民を追い込んでしまった。この建前社会にいると危険が危ない。後で後悔しないように、前に前進しなければならない。

平和時は核心に触れずにゆるーく生きる方がいい。核心に触れるのは余計な労力だからである。そんな平和ボケのままでいると、危機の時に滅びることになるだが、まあ危機が来た時になんとかすればいいのであって、そんなこと言っている暇があったら目の前の仕事せえよ、と言われる始末である。

私が社会の教科が嫌いだった理由も、場活が平和時には儲からない理由も紐解けてよかった。ああ、すっきりした。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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