第143回「Stayの国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第143回「Stayの国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

人類の社会変化を4つのステージにしてみると、

1. 狩猟採集の共同体

2. 農耕牧畜によるヒエラルキー

3. 産業革命による帝国主義

4. IT革命によるグローバリズム

知恵と努力で生産力と生産性を高め続けた結果、人間は哺乳類の中で個体数1位の72億になった。全哺乳類の半数以上をしめる。ちなみに2位は家畜類で50億の36%。3位がペットの15億の10%。人間がほぼ全ての哺乳類を牛耳っているのがわかるだろう。鳥インフルエンザが起これば何十万羽の鶏が簡単に殺処分され、多頭飼育崩壊が日本だけで毎年2千件もあるように、人間のやりたい放題である。

生物多様性といいながら全くもってホモサピエンスの天下。すでにコンクリートや金属などの人工物の総重量が、動植物の総重量を超えているが、それでもまだまだ人工物が増えている。これほどまでに地球上で支配力を持った生物種は、恐竜以来だろう。恐竜が繁栄していた時代は空気中のCO2の割合が多く、さらに温暖だったため植物の成長が早く量も豊富にあった。その植物を大量に食べることで恐竜は繁栄をした。

その恐竜は隕石の衝突で気候変動が一気に起こり、絶滅したといわれているが、最近の研究では、隕石の衝突以前からすでに全盛期は過ぎて個体数が減っていたのではないかといわれている。その原因もやはり気候変動である。

その気候変動に対応した哺乳類が、恐竜にとって変わったわけだが、その哺乳類を牛耳る人間も今、気候変動で徐々に追い詰められている。植物の生産力に依存していた恐竜と違い、自ら生産力を上げることで繁栄した人間は、皮肉にも恐竜の繁栄を支えたCO2の排出で気候変動を招き、衰退いや滅亡への道を歩んでいる。恐竜たちはそんな人間を見てどう感じるのだろうか。

恐竜も人間も「盛者必衰の理」をあらわしているのだが、恐竜と人間の大きな違いは、人間はその理を超えられること。つまり、衰退の原因を解き明かし、取り除くことができるのだ。この理性が人間の強みだが、生物の本能である「欲」が理性に邪魔してくる。

「欲」は成長と発展の原動力であるが、同時に滅亡の原因。宗教では自らを欲で滅ぼさないよう、欲深い我を開示して懺悔したり、戒律を作って断食をしたり、煩悩を消す修行をしたりする。宗教は「心」にアプローチするが、そこにヒントが隠されている。もし、原動力を維持しながらも滅亡させないイノベーションを起こせたなら、ホモサピエンスは絶滅を免れるだろう。

生物進化のトリガーとなっているのがウイルスなので、そのウイルスのメッセージに耳を傾ければ、イノベーションが起こるかもしれない。新型コロナの人間社会へのメッセージは「Stay」である。これは日本人が経験した、江戸時代の270年間である。鎖国しながらも循環型の社会をつくり繁栄をした。経済に文化に教育に、帝国主義の国と比べても遜色なかった。産業革命前だったので生産力と生産性は低かったものの、地球環境に優しい社会であった。

この江戸時代のモデルを発展させる。すでに世界72億人中45億人がインターネットにつながっているが(10年以内に一部の独裁国家を除いてほぼ100%になるだろう)、これが長崎の出島だと思えばいい。その出島を活用し、オンラインも含めて共同体となる地域に根ざした生活をする。間違っても産業革命とIT革命を推進させた金融経済を中心にしないこと。金融は後押しにはなっても中心ではない。手段が目的化するのと同じだからだ。この金融という欲の世界ではなく、心の世界、つまり意識の世界に。これでステージ5が見えてきただろう。

1. 狩猟採集の共同体

2. 農耕牧畜によるヒエラルキー

3. 産業革命による帝国主義

4. IT革命によるグローバリズム

5. 意識革命によるリアル&オンライン共同体

 

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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