第196回「日本劣等改造論(28)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― 仕事の動機づけ(前編)―

日本人は勤勉である。しかし、勤勉であるが仕事に幸せを感じている人は多くない。私の感覚では、仕事の打ち合わせの時、ワクワクして参加してくる人は全体の2割ぐらい。このコラムの前号(第195回)でもお伝えしたが、大学の授業で行っているのと同じく、参加者のワクワク度を高めるのに私のエネルギーと時間はかなり投下されている。

職場でのWell-being(幸福度)を測った世界的な調査がある。2016年のデータ、15カ国14,400人にとったアンケートの結果であるが、日本人はダントツで最下位の15位。職場の満足度は世界平均71%に対して日本は44%。トップはインドの88%である(日本の2倍だ!)。

詳細を知りたい方はこちらを参照ください↓
https://www.edenred.jp/news/pdf/2016-05-27_PR.pdf

Well-beingを「環境」「承認」「感情(主にモチベーション)」という3つの切り口で調査をしているが、日本は「周囲からのサポートがある」といった環境のスコアが比較的高いが、「毎朝職場に行くのが楽しみである」「会社での自分の将来に自信がある」といった感情スコアが非常に低い。

これには様々な要因があると思うが、一番は会社のコマになっていることだろう。仕事が主体で、その仕事に従事する「従業員」を真面目にこなす。真面目で従順な生徒であるように学校で躾けられたことも影響しているだろう。未だ、学校では足並み揃えての行進、全体集合、前に倣え、気をつけ・休め、回れ右!など先生の号令のもと訓練をしている。軍事パレードでもするのだろうか。一体何の訓練?

企業には労働組合といった従業員の働く権利を守る団体があるが(誰でも作れる)、特に日本では企業別組合といった企業毎の労働組合が主流である。平成6年には1200万人いた組合員は、28年たった現在では700万人にまで減っている。逆に雇用者の全体数は500万人ぐらい増えているから、比率で見ても労働組合は縮小している。

派遣社員の多い企業では、組合はないに等しい。派遣社員でも労働組合は作れるが、派遣会社の労働組合となるので、実際に働いている職場の労働組合でないからだ。700万人の組合員さんには悪いが、労働組合はすでに役割を終えているだろう。春闘・メーデーでは昭和の頃のパワーも勢いも見られない。

誰しもが従属はしたくない。他人に組織に支配されたくない。そう思うが、仕方なく「従属」している。最初から諦めているのだ。諦めがある限り、Well-beingは低いままだろう。では、この諦めはどこから来ているのか。「言われたことを真面目にやっておけば無難」といった諦めの空氣が蔓延している。企業の研修ではこの20年で「素直ないい子受講生」ばかりになった。研修後のアンケートでは色々不満を書くのだが、その場では無難に過ごす。

では冒頭の調査の1位だったインドとは何が違うのか。歴史を見るとわかる。インドは英国の植民地であったが、民族運動を経て独立を勝ち取った。この歴史的な経験がインド人のマインドにしっかり根ざしているのだ。インド映画を見ても、スピルバーグが3回観たという「きっと、うまくいく」のように、従属から独立して自由を勝ち取るような痛快な独立ストーリーが多く、これまた面白い。

日本が独立を果たしたのは1952年4月28日であるが、殆どの日本人がその日のことを知らない。つまり独立して自由を勝ち取ったというストーリーがすっぽり抜けている。だから「従属」マインドが残っているのだ。それが「働く」という場面においても諦めとして現れているのだろう。「会社に言っても仕方ないしね・・」といったドヨーンとした空氣が、日本人のwell-beingを下げている。

「よし、インドのように独立のための民族運動をするぞ!」といっても、何から独立するのか。日本はすでに独立国。日本を実効支配したアメリカとは現在のところ安全保障条約を交わしているが、国家間の契約にすぎない。従属マインドがあるから、縛られているように感じるのだ。この契約は期限の10年がすぎ、1年毎に自動更新しているが、通告後1年で廃棄できるものである。

日本に131箇所ある米軍基地は、セコムにアウトソーシングしているように捉えればいい。こちらがお金を払い、土地や空域を利用する権利を与えているので、日本が雇い主なのである。なんなら「そろそろALSOKに変えようかなぁ・・」と呟けばいい。

昭和の安保闘争はその独立心を爆発させ、学生運動にまで発展したが、成果を残さず終わってしまった。その運動に熱狂していた人たちはすでに70歳を超えている。引退しているか、経営・管理側になっているだろう。独立の氣概は日本にはもうないのだろうか。

それでも「きっと、うまくいく」後編に続く。

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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