原因はいつも後付け 第39回 「親しいお店、馴れ馴れしいお店」

// 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第39回》親しいお店、馴れ馴れしいお店

お気に入りのお店を新しく見つけた時、私はとても嬉しい気持ちになります。
「ここにこんな良いお店があったんだ」という、心おどる喜び。

その後も何度か行くうちにお店の人に顔を覚えてもらい、さらに何度か行くうちに好みの料理やお酒まで覚えてくれるようになる。

こうして回数を重ねるごとにお店の人との関係性も変わっていき、気がつけば私はそのお店にとっての「顧客」になっている訳です。

ただ私、こうしてお店に顧客として認識されたと感じた時に嬉しい反面、ちょっと心配になることがあるのも事実なのです。
なぜなら、お店との関係が近くなるほど、そのお店の本性が見えてくるからです。


「親しい」と「馴れ馴れしい」の違い。
この2つの違いをお店がどう考えているのか?

私はこの認識がお店の業績に少なからず影響を与えていると思っています。
と言うのも、これまで私が実際に店舗を経営したり、様々なお店の集客を手伝ってきた限り、顧客がついているお店ほど、この違いが分かっている気がするのです。

顧客がしっかりついているお店は、お店と顧客の関係性が「親しい」ものの、決して「馴れ馴れしい」訳ではありません。一方、顧客がなかなかつかないお店は、お店が顧客に対して「親しい」と言うよりも「馴れ馴れしい」のです。

では、私が感じるこの「親しい」と「馴れ馴れしい」の違いはどこから来ているのか?
それは、顧客に対し感謝の気持ちを忘れず、お店で過ごす時間の価値を高める努力が出来ているどうか。

「この人、また当たり前のこと言ってるよ。」なんて思った方もいるでしょう、笑。
確かに私が書いたのは当たり前のこと。

でも、実際はどうなのでしょう?
顧客がお店に来てくれる事に対し、いつの間にか感謝の気持ちを忘れ、時間の価値を高める努力をする代わりに、必要以上に顧客との心の距離を詰めることで、また来てもらおうとしてしまう。

偉そうに書いていますが、これは正に私が開業した頃にやってしまった「馴れ馴れしいお店」そのもの。
今から思えば、当時の私のお店が売れなかった理由も納得です。だって、顧客の多くがお店に望んでいるのは「心地よい時間を過ごすこと」であり、お店のスタッフに「馴れ馴れしくされること」ではないのですから。

そして、この「馴れ馴れしい」行為というのは、何も私がやってしまったような必要以上に心の距離を詰めようとすることだけでなく、他の業界でも違った形で同じ失敗をやってしまっている人がいるような気がします。

「どうせ毎年仕事を回してくれる顧客だから、少しくらい手を抜いても大丈夫だろう。」
「長い付き合いだから、新規客を優先して、顧客の納期をちょっと遅らせてしまおう。」

こんな風に顧客の存在に甘えて感謝や努力を欠いた判断を勝手にしてしまうことも馴れ馴れしさの現れなのではないでしょうか?

どのお店も「顧客になってくれるまで」は大抵努力できるもの。
ただ、顧客となってくれた後も感謝する気持ちを持ち、お店を使ってもらえる努力を続けることは、口で言うほど簡単なものではないでしょう。

簡単ではないからこそ、顧客と馴れ馴れしくすることでお店を使ってもらおうとするお店があるのかも知れません。ただ、顧客の多くが望んでいるものが「心地よい時間を過ごすこと」である以上、馴れ馴れしくすることで親しい関係を作り出そうとするほど、顧客は離れていくのだと思います。

顧客と長く良い関係を続けるために必要なのは、馴れ馴れしくすることで「顧客と親しくなろうとする努力」ではなく、顧客の本当に求めるものを提供することで「顧客から親しみを感じてもらえる努力」をすること。

「親しい」と「馴れ馴れしい」の違い。
この違いを考えようとせず、間違った努力をし続ける限り、そのお店に顧客がつくはずなどないんじゃないか?と、私は開業した頃の自分に問いかけたいのです。

 

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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