泉一也の『日本人の取扱説明書』第37回「炭火の国」

日本人の心をあっためるのは炭火のような炎。それは暗く不便で臭いが、表面ではなく芯をあっためる熱。そんな心の奥をあっためる人材がいるだろうか? 炭からガスに変わったように、日本の教育はガス人材の育成に変わってしまった。明るく便利で清潔なペラペラな人材を育て、ガス的成果を評価する。

炭人材を育成するのなら、炭の作り方からヒントを得ればいい。炭は高温の釜で、時間をかけて蒸し焼きにする。空気中の酸素と木の炭素を融合させず、つまり燃焼をさせず、木の水蒸気と不純物を飛ばし、炭化をさせていくのだ。炭化とは純化であるが、釜の中で余分なものを飛ばしていき、純粋な姿を表出させる。炭火で焼くと外はカリッ、中はふわっとなる。ガスの火からは水蒸気が出るので、ガスで焼くと水っぽくなる。人でいうなら炭人材は周りの人をキリッとさせ内側はほっくりさせる。ガス人材は、周りをベチャベチャに水っぽくする。

炭人材の育て方は、高温の釜で時間をかけて蒸し焼きにするがごとくすればいい。教科書を元に冷たい教室で学ばせるのではなく、人と人の間で摩擦熱が起きるような関係性を作り、高温の釜にしてそこで「水臭さ=他人行儀」と「不純物=しがらみ」を飛ばすのだ。

ガス人材と炭人材の育て方はまるで違う。ガス人材を育てるには、これを学んで取得すれば「自利=自分の成功、利益」になるよと明るい未来を見せて、逆に何もしないとヤバイよと不安を煽って「燃焼=モチベーションアップ」させる。一方、炭人材を育てるには、燃焼させず蒸し焼きにするので、暑苦しく悶々とさせていくのだ。この暑さと悶々を通して、水と不純物が飛んで純化がなされる。炭づくりは高等な技術と労力が必要だが、その技術を現代の日本の教育界にいる人はほとんど知らない。炭火が生活の中心から消えたように。

こうして暗くなって終わる感じが炭っぽくていい。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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