さよなら採用ビジネス 第81回「日本は再び世界の工場になる?」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第80回『もう、ここから出られない』

 第81回「日本は再び世界の工場になる?」 


安田

パナソニックが半導体事業を台湾企業に売却しちゃうそうです。

石塚

半導体はもう無理でしょ。

安田

でも家電事業だって厳しいですよ。

石塚

家電はすぐに価格が下がっちゃうから。儲からないです。

安田

パナソニックは「赤字事業を撲滅する」って宣言してるんですけど。

石塚

残る事業があるかどうか。

安田

いやホントに。発表では「雇用は維持する」って言ってるんですけど。2,400人ぐらい社員がいるみたいで。

石塚

維持する方向でしょうね。台湾企業にしてみたら人材にも価値があるので。

安田

でも中国とか韓国とか、日本より人件費が安い国と競争しなくちゃいけないわけでしょ?雇用を維持できるんですかね。

石塚

人件費でいうと、実は日本のほうが安くなってきてて。

安田

え!すでに逆転しちゃってる?

石塚

どんどんそうなってます。

安田

じゃあ売却しなくても勝てるんじゃないですか?

石塚

いやいや。半導体は為替もあるし「圧倒的なシェアを取らないと儲からない事業」になってますから。

安田

家電はどうですか?

石塚

家電も厳しいですね。たとえば中国に小米(シャオミ)というメーカーがあるんですけど。コスパのお化けみたいな会社。

安田

品質はどうなんですか?

石塚

それなりにいいんですよ。2~3年ぐらいで壊れちゃうんですけど「この値段でこれだったらいいや」みたいな割り切り商品。

安田

そんなのが売れるんですか?

石塚

そういう商品が売れるんですよ。世界では。

安田

日本人はこだわりすぎ?

石塚

日本って質とデザインと耐久性をすべて要求するじゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

もう、それに耐えられないんですよ。家電メーカーが。

安田

要望が高すぎて?

石塚

はい。かと言って値上げすると売れない。

安田

安さも要求されますからね。

石塚

でも値段を下げるということは、製品寿命とかクオリティとかデザインも妥協しなきゃいけないってこと。日本の家電メーカーはそれができない。

安田

なるほど。

石塚

妥協できないけど昔ほど高く売れないから、利益が取れない。

安田

でも冷蔵庫や洗濯機のCMってばんばん流れてますよ。よっぽど儲かるのかなって思ってました。

石塚

いや厳しいですよ。そんなに儲からないです。

安田

じゃあかなり無理してると。

石塚

事業をやる以上は、広告宣伝費をかけないわけにはいかないので。

安田

まあそうですよね。じゃあ今後は半導体に限らず、どんどん事業売却しちゃう可能性もある?

石塚

ありますね。

安田

パナソニックは「事業がなくなったとしても、事業に携わってきた社員は決してクビにしません、雇用を維持します」と言ってまして。これは信じていいものですか?

石塚

日本の製造業って労働者の質がすごくいいんですよ。むしろ「それ付きで売ってくれよ」って感じじゃないですか。

安田

台湾企業になっても重宝されると。

石塚

彼らはすごく現実的で賢いので。

安田

台湾企業になっても製造部門は国内に残りますか?

石塚

そう思います。製造部門を全部「中国や台湾に移す」なんていうのは、むしろ愚の骨頂。日本がいま、いちばん人件費が安いわけですから。

安田

安い上に質もいいと。

石塚

質の高い労働力付きで事業を買えるんだから、300億でもいい買い物ですよ。

安田

ということはオーナーだけが交代して、社員もやってる事業も変わらず、今のまま続いていくと。

石塚

基本的に人件費が安いから「この範囲で維持してくれるんだったらOK」となるでしょうね。

安田

じゃあ台湾オーナーは、あとで「社員をクビにしよう」なんて企んでない?

石塚

むしろ「これだけ質の高い現場の社員がいるんだったら、価値あるよね」と思って買ってる。

安田

じゃあパナソニック社員ではなくなるけど、飯は食っていけると。

石塚

そのとおりです。国際的な資本力で「台湾企業がパナソニックを上回っている」というだけの話。余力のあるほうが買う。余裕がない方は手放す。

安田

パナソニックって、そんなに余裕ないんですか?

石塚

ないと思います。

安田

ひとつ不思議なことがあるんですけど。

石塚

何でしょう?

安田

台湾企業が買い取ったからといって、日本人の給料を劇的に安くするわけじゃないんでしょ?

石塚

すでに安くなってますからね。製造現場は。

安田

なのになぜ、パナソニックの役員がやると利益が出ないんですか?

石塚

グローバル経営が下手だってことですよ。

安田

国内だけだったらいいけど、世界のマーケットで戦う力はないと。

石塚

そういうことですね。

安田

台湾企業に経営が移れば黒字化する可能性はありますか?

石塚

あると思います。実際シャープも黒字化しましたから。

安田

確かに。じゃあ中にいる社員さんは逆に安泰ってことですか?買収されて。

石塚

言語習得を求められること以外のリスクはないと思います。

安田

言語習得を求められるんですか?

石塚

責任者クラスはそうなるでしょうね。アメリカ企業に買われたら英語が必須になるように。

安田

じゃあグローバル化によって一番厳しくなるのは経営陣で、その次が現場の責任者で、現場スタッフに関してはみんな安泰だと。

石塚

現場は優秀だし人件費も安いから。

安田

そんなに安いんですか?

石塚

気がつけば日本の製造現場って、アジアでいちばん人件費が安い。

安田

でも、さすがに大手の現場は高いんじゃないですか?

石塚

いやいや、そんなことないです。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。あんまり報道されませんけど、デフレが30年続いて、企業が内部留保をため込んで給与に反映させなかった結果、質のよい安い労働力が日本に出現した。

安田

じゃあ今後も資本力のある外資が、労働者込みで日本の製造現場をどんどん買っていきますか?

石塚

はい。令和という時代に、日本は再び世界の工場になると思います。

安田

だけど資本は全部外資に移る?

石塚

経営者には競争力がないので。日本で競争力があるのは安くて質の高い現場だけ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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